ファイナンス 2022年12月号 No.685
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図1 個人の需要関数 図1は需要関数を表していることにも注意して下さい。需要関数とは、与えられた価格の下で消費したい量を表します。ビールの例を引き続き使いましょう。例えば1杯目の限界便益が150円相当である場合、その価格が100円だったら、100円の価格を払って150円分の便益が得られます。したがって、差し引き50円の得になりますから、その1杯は飲みます。2杯目の便益が例えば120円分に下がったとしても、まだ20円の得なので、2杯目も行きます。一方、1杯余計に飲むことの便益(限界便益)が100円より低くなれば、その時点で飲むことを止める筈です。つまり、価格と限界便益が等しくなるまで消費を続けることになりますから、限界便益を表すグラフは需要関数を表すことになります。 O 図1 個人の需要関数限界便益 財の消費量 ファイナンス 2022 Dec. 45PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 14としてはやはり応益原則に基づくと整理されています。つまり、租税思想史的には応益原則の1つと認識されているようです。 2.2 支払い意思額と需要関数 限界便益とは財を1単位追加的に消費するときに発生する便益です。例えば、夏の暑い日にビールを1杯、2杯、3杯飲むという場合、その追加的な1杯1杯から生じる追加的な満足度となります。恐らく皆さんの多くがそうであるように、ビールの追加的な満足度は、1杯目より2杯目の方が、2杯目より3杯目の方が低くなるのではないでしょうか。経済学では、これをもって、限界便益が逓減すると言い、図1の右下がりの線がそういった関係、つまり限界便益が財の消費量が増えるにつれて低下していく関係を表しています。 また、限界便益は最大支払い意思額、つまり追加の1杯に対して最大限いくらまで払っていいついて深く考えてみたいと思います。なお、これからお話をさせていただくことの一つ一つは経済学的には基本的なものです。従って、それぞれに新規性があるという訳ではありません。むしろ以下では、そのような一つ一つのピースを繋ぎ合わせることで、課税原則についてどのような気付きが得られるかをお示ししたいと思います。アダム・スミスによる課税原則は4つあるとされます。スミスは、そのうち第一原則と呼ばれるものにおいて、国家の保護の下で各人が享受する収入を各人の能力とみなし、その能力に比例して納税すべきと説きました。この原則には「equality of taxation」という表現があるので、日本の教科書では「公平性の原則」や「平等性の原則」と呼ばれていますが、経済学で言う「公平性」と特に関連がある原則とは思えません。この第一原則には「能力に応じて」という表現があ るため、日本の教科書や専門書を見ると、それが応益原則(利益説)なのか応能原則(能力説)なのかについて解釈が分かれるようです。利益説と能力説の混合とする説明があったり、利益説や能力説に触れることなく単なるスミスの課税原則のひとつとする紹介があったりと、複数の解釈があります。ただし、セリグ2.応益原則応益原則には、古典的な応益課税の見方(classical view of benefit taxation)に基づいた「古典的応益原則」と、新しい応益課税の見方(modern view of benefit taxation)に基づいた「新応益原則」があります。前者は、しばしば財政学の教科書で「アダム・スミスの第一原則」と呼ばれるものです。そこではbenefit as abilityとして、便益が能力に比例するという考えを取ります。それは「保護説」と呼ばれる場合もあります。後者は、ミクロ経済学や公共経済学の教科書で必ずと言って良いほど解説されるリンダール・メカニズムに繋がる議論です。ここでは、支払い意思額(willingness to pay)を便益とします。近代経済学者による財政学の教科書では、古典的応益原則には触れず、新応益原則のみを扱っているものが多いです。マン(Seligman 1908)によると、アダム・スミスは「収入として得られた便益」という表現を利用していることから、やはり、応益原則に基づくと整理されています。つまり、租税思想史的には応益原則のひとつと認識されているようです。ヴィクセルやリンダールによる新応益原則では、支払い意思額を便益として捉えます。これについては若干詳しく説明させて下さい。図1では、個人の需要関数が描いてあり、横軸で財の消費量、縦軸で限界便益ヴィクセルやリンダールによる新応益原則では、支払い意思額を便益として捉えます。これについては若干詳しく説明させて下さい。図1は、個人の需要関数が描いてあり、横軸で財の消費(=支払い意思額)が測られています。量、縦軸で限界便益(=支払い意思額)が測られています。 限界便益とは財を1単位追加的に消費するときに発生する便益です。例えば、夏の暑い日にビールを1杯、2杯、3杯飲むという場合、その追加的な1杯1杯から生じる追加的な満足度となります。恐らく皆さんの多くがそうであるように、ビールの追加的な満足度は、1杯目より2杯目の方が、2杯目より3杯目の方が低くなるのではないでしょうか。経済学では、これをもって、限界便益が逓減すると言い、図1の右下がりの線がそういった関係、つまり、貨幣価値で測った限界便益が、財の消費量が増えるにつれて低下していく関係を表しています。図1は、そのタイトル通り、需要関数を表していることにも注意して下さい。需要関数とは、与えられた価格の下で消費したい量を表します。ビールの例を引き続き使いましょう。例えば1杯目の便益が150円相当である場合、その価格が100円だったら、100円の価格を払って150円分の便益が得られます。したがって、差し引き50円の得になりますから、その1杯を2.1 スミスの第一原則2.2 支払い意思額と需要関数3

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