ファイナンス 2022年12月号 No.685
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1998年にクイーンズ大学(カナダ)からPh.D.(経済学)を取得。その後、明治学院大学講師、財務総合政策研究所総括主任研究官、一橋大学助教授、東京大学准教授などを経て現職。主に税制、社会保障、地方財政を主な対象として研究。2006年より財務総合政策研究所特別研究官、2020年より日本財政学会代表理事。東京大学大学院経済学研究科教授・財務総合政策研究所特別研究官 林 正義 44 ファイナンス 2022 Dec.財務総合政策研究所では、財務省内外から様々な知見を有する実務家や研究者等を講師に招き、業務を遂行する上で参考になる幅広い知識や情報を得る場として「ランチミーティング」を開催しています。今月のPRI Open Campusでは、林正義 東京大学大学院経済学研究科教授をお招きして「応益原則と応能原則―課税原則の再検討―」と題してご講演いただいた内容を、「ファイナンス」の読者の方々に紹介します。1.はじめに財政学の教科書をご覧になったことがある方は、「応益原則」や「応能原則」という言葉を目にされたことがあるかと思います。応益原則とは、人々の納税額は彼らが受け取る公共部門からの便益に応じるべきだとする考えです。英語ではbenefit theory、benefit approach、もしくは、benefit principleと表現されます。このうち、benefit principleの直訳が応益原則となります。応益原則は「利益説」とも呼ばれますが、それはbenefit theoryの直訳です。benefitは「便益」と訳されることが多いと思いますが、ここでは「利益」と訳しているわけです。他方の応能原則は、個人の能力や担税力に応じて納税すべきという考えです。この原則に立つ税制の典型例としては累進課税が挙げられます。応能原則は、英語ではability theory、ability approach、もしくは、ability principleと表現されます。このうち、ability principleの直訳が応能原則です。「能力説」と訳される場合もありますが、それはability theoryの直訳です。政策談議においても、これらの原則は特定の税制を正当化するためによく用いられているようです。特に地方税に関しては、何故か「地方税は応益原則に従う」とされ、「均等割は望ましい」、「比例税率にすべき」、「控除額は国税より小さくあるべきだ」などという主張が、政策談義だけでなく学術的な議論においてでさえも、無条件に受け入れられている印象を受けます。しかし私は、「○○という税は××原則に従う」や「××原則に従うから△△だ」という議論に違和感を持っていて、そのような議論は、言葉は悪いのですが、脊髄反射といいますか、一種の思考停止のように感じられます。そこで、今回は少し立ち止まって、これらの原則に林 正義 東京大学大学院経済学研究科教授14応益原則と応能原則 ―課税原則の再検討―

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