ファイナンス 2022年12月号 No.685
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(3)円高による工場の海外移転と企業城下町消滅それから1990年代後半の円高で工場が海外移転してしまい、さらに高度経済成長期にあった企業城下町が消滅していきました。それではどうするのか? 一つの可能性として、私は「日本は製造業から観光業に転換すべきだ」と考えております。私が小学校に通っていた頃は「日本は資源がないから人が資源」などと言われておりましたが、日本には豊かな自然資源があるのです。日本は先進国の中でも森林率が高い国です。降雨量も多いですから水、雪、温泉とかもありますよね。歴史もあるから世界遺産も25カ所あって、さらに公共交通機関も発達しているし、治安も良いです。先ほども言いましたが、この円安傾向でNIPPONIA小菅のような1泊2食3万円の高級ホテルに200ドルちょっとで泊まれるというのは、非常に魅力的になります。2019年、コロナ前のインバウンド消費の額は4兆8,135億円と推計されております。輸出品目を見ると自動車が12兆円くらいあって、次に半導体が4兆円くらいある。つまり、インバウンド消費は、第二位の半導体の輸出額を2019年時点で、すでに越えているわけです。観光業には老若男女が関わることができます。地方のおじいさんおばあさんでも、観光業に関わっています。地産地消で農産物や海産物を使えば一次産業にも貢献する。そのためには観光客の分散化が必要で、京都や浅草ばかりに観光客が集中するのではなくて、全国隅々まで観光客に行ってもらう努力が必要なのではないかと思います。『山奥ビジネス』という本には盛り込めなかったことを、少しだけお話しします。アダム・スミス以降の経済学においては、「労働は苦行」なのです。でもイギリスのデザイナー・建築家・詩人であるウィリアム・モリスは、「労働は喜び 42 ファイナンス 2022 Dec.んでいて、村の木材を使った住宅・家具で移住体験者用のタイニーハウスを作り、「道の駅こすげ」に隣接させております。小さい家に住むと光熱費が安くなります。田舎暮らしで大きな古民家などに住むと、冬は本当に寒いのです。タイニーハウスだと、すぐ暖まったり冷えたりするので、光熱費があまりかからないのです。さらに2017年からは「タイニーハウスこすげデザインコンテスト」を開催していて、2021年には163組が応募しております。この小さな小菅村に、渋谷からクラフトビール会社が移転してきました。代表の山田司朗さんは2011年に渋谷でクラフトビール会社を創業しました。商品をOEM生産していましたが、2017年に小菅村に工場を設立しました。交通の便がいい甲府盆地で候補地を最初に探したのですが、とても高くて手が出なかったそうです。たまたま山梨県から小菅村の空き工場を紹介され、そこでやり始めたのです。そしてコロナの感染拡大に伴い、オンラインでの仕事になったことから、2020年に渋谷から小菅村に本社を移転しました。本社移転後に、アメリカ人2人が入社してきました。アメリカ人は山奥とかを全然気にしないで、むしろ自然の中で製造していることに興味をもって入社してくるのです。このように山奥でも、差別化・可視化・ブランド化に成功すると、地方経済がうまくいくのです。ここから地方経済活性化についてお話しします。戦後の復興期は、全国各地で繊維を中心とした地場産業や鉱業や炭鉱が盛んでしたが、1970年代からそれらが消滅していきました。また1990年を境に人々の習慣が大きく変化して、例えば、仏壇や婚礼家具等の需要が激減しました。(エ)渋谷からクラフトビール会社が移転(2)日本人の生活習慣の変化(2)製造業から観光業へ転換3.地方経済活性化のために4. 『山奥ビジネス』に盛り込めなかったこと(1)地方経済の衰退(1)地場産業・鉱業(炭鉱)が消滅

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