令和4年度 上級管理セミナー ファイナンス 2022 Dec. 37て心がけていることは「自分が実際に見聞きしたことを主観的に書いていくこと」です。理論だけではなく、主観的な意見を書いております。もう一つ心がけていることは「時代が求めていることをタイムリーに書く」ことです。こうしたことを踏まえつつ、2019年5月に『衰退産業でも稼げます』(新潮社)という本を出しました。衰退産業と言われている商店、農業、旅館、伝統産業において、代替わりしてイノベーションを起こした16事例を取材して書きました。2020年9月には新型コロナウイルス感染拡大に伴うコロナ移住の増加を念頭に『コロナ移住のすすめ』(毎日新聞出版)を出版しました。そして昨年出版したのが『六方よし経営』です。副題は「日本を元気にする新しいビジネスのかたち」で、皆さんご存じの「近江商人の三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」に、新たに「作り手よし、地球よし、未来よし」を加えて、14事例と4コラムが書いてあります。「六方よし」は、すなわち「和のSDGs」です。ただSDGsが17の高い理想を言っているのに対して、「六方よし」はあくまで行動規範なのでわかりやすいかな、と思っております。「六方よし」は二手に分かれます。先ず「売り手よし、買い手よし、作り手よし」の部分は人権問題なのです。いまインフレが起こってきているのに、価格を転嫁できない。部品メーカーが特にそうだと思うのですが、少し値上げしたら逆に(取引先から)切られてしまう。今は「買い手よし」が強すぎる状況になっております。今こそ「売り手よし、作り手よし」で格差の解消をしなければいけないと思います。一方の「世間よし、地球よし、未来よし」の方は環境問題です。これも非常に重要です。日本では「SDGs=環境」と思われがちですが、SDGsというのは、人権問題もきちんと取り組まなければいけないのです。ここからは10月15日に新潮新書として発売される『山奥ビジネス』についてお話いたします。この本の副題は「一流の田舎を創造する」です。「一流の田舎」の反対は「三流の都会」ということです。「三流の都会」というのは都会の真似をしていて、田舎らしさが無くなっていることなのです。その一方で「一流の田舎」を維持したまま、ビジネスを大きく成長させている人もおります。ではそういう人たちはいったいどういうことをしているのか? そういうことをこの本で紹介しております。ちょうど一年前に『六方よし経営』を出したときに、たまたま長野県庁の人から「藻谷さんは中山間地の活用について、どのようにお考えですか?」と聞かれて、私は答えられなかったのです。答えられないということは、これを研究して良い事例を見つけたいと思いました。平成の大合併により県庁所在地にも限界集落があり、長野市では鬼き無な里さとか戸と隠がくしとかです。世の中を見回してみると「ポツンと一軒家」というTV番組が結構人気になっており、コロナの感染拡大を受けて、より山奥に人々が興味を持つようになったな、と私は思っておりました。この本を企画した去年はちょうど岸田政権ができて、「新しい資本主義」や「成長と分配」という言葉が日々のニュースに出てくるようになっていました。私自身はユニコーン企業(「創業10年以内」「評価額10億ドル以上」「未上場」「テクノロジー企業」の4条件を満たすスタートアップ企業)を100社創出できたとしても、雇用創出効果は限定的と思います。高度経済成長期とかバブル経済期に経験したような分配は起きないのではないか、特に地方には起きてこないのではないかと思います。ではどうすればよいのか。資本主義の新しい形が必要になるのではないか。私は「日本経済の隅々まで、毛細血管の隅々に至るまで元気になるべきだ」と常々考えており、それをやるのは山奥からではないか、ということでこの本を書いたのです。(5)著書紹介(1)「一流の田舎」VS.「三流の都会」(2)『山奥ビジネス』執筆のきっかけ2.『山奥ビジネス』
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