ファイナンス 2022年12月号 No.685
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*1) 例えば、EUの「エネルギーの価格安定性、供給安定性の持続可能性に向けた(共同)行動方針」(リパワーEU)においては、2030年までのロシア産【図表4】EUの天然ガス輸入の国別構成比(2021年)【図表6】EUの電源構成比ロシア39.7%(出所)Eurostat(注)値は、EU加盟国のうちデータの取得が可能な23か国(アイルランド、キプロス、マルタ以外)における電力卸売価格(翌日物、月中平均)の23か国平均値。(出所)EMBER135791113579111357911135791113579202220182019化石燃料脱却を掲げている。その他13.7%英国6.4%米国7.2%アルジェリア8.2%ノルウェー24.9%2021202010(出所)EMBER(発電電力量)100ギガワット80ギガワット60ギガワット40ギガワット20ギガワット(出所)ACER資料より筆者作成。(%)100806040202012201320142015201620172018201920202021限界費用の低い電力から優先的に落札される(メリット・オーダー原則)。燃料費がゼロである再生可能エネルギー(水力、風力、太陽光等)による発電は限界費用が低い。0ガス原子力石炭太陽光ガス発電電力需要が100ギガワットの場合、落札額の最高値は70€(ガス発電)限界費用:70€石炭発電限界費用:55€水力発電限界費用:15€風力発電限界費用:10€太陽光発電限界費用:5€バイオマス風力水力その他電力需要が80ギガワットの場合、落札額の最高値は55€(石炭発電)全電源に一律55€が適用全電源に一律70€が適用 28 ファイナンス 2022 Dec.その中で、2022年初以降は、ロシアによるウクライナ侵略を受けたロシア産エネルギー依存脱却の取組*1などを背景として、ロシアからの天然ガスの供給が減少したことにより、一層需給がひっ迫し、価格の上昇が加速したと考えられる。その中で、電力卸売価格の上昇は、天然ガス価格の上昇が主な要因であるとされている。しかし、欧州の電源構成比を見ると、天然ガスを燃料としたガス発電の割合は全体の2割程度である。それにもかかわらず電力卸売価格全体が天然ガス価格の影響を受けるのは、欧州の電力卸売市場の設計が大きく関係している。欧州の電力卸売市場は、pay-as-clear市場と呼ばれ、市場には発電の限界費用(発電コスト)が低い電源から優先的に供給されるが(これをメリット・オーダー原則という)、限界費用の最も高い電源の落札価格が全電源に一律に適用される。燃料である天然ガス価格の上昇によりガス発電の限界費用が上昇し、足下ではガス発電の限界費用が一番高くなっているところ、他の限界費用が低い電源による発電だけでは電力需要がまかなえない場合、卸売価格はガス発電の限界費用まで引き上げられることとなる。そうした中、前述のとおり、2021年中頃以降、欧州の天然ガス価格は上昇した。また、経済活動の再開によりガス需要と同様に電力需要も拡大したため、ガス発電無くては電力を賄えなくなった。こうしたことから、目下、電力卸売価格は天然ガス価格に連動する形で上昇したと考えられる。【図表7】pay-as-clear市場のイメージ3.電力価格上昇の背景と要因電力価格上昇の主な要因は、ガスと同様に卸売価格の上昇であり、電力卸売価格も2021年中頃以降大きく上昇している。【図表5】EUの電力卸売価格(ユーロ/メガワット時)5004003002001000

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