*27) BOE資料では「Common equity is the quintessential loss-absorbing instrument and is easy to understand. Instruments like AT1 and ʻcontingent convertibleʼ debt have their place in the current framework but they introduce complexity, uncertainty and additional ʻtrigger pointsʼ in a stress and so have no place in our stripped-down concept vehicle.」としています。詳細は下記をご参照ください。https://www.bankofengland.co.uk/speech/2022/april/sam-woods-speaking-at-city-week-2022-developments-in-prudential-regulation-in-the-uk *25) Bloomberg「欧州銀行クレジット:AT1債の22年コール日程」(2022/2/25)では初回コールをスキップした銘柄をまとめており、ドイツ銀行やロイズ・バンキング・グループなど残高が大きいものもある一方、初回コールがスキップされた銘柄は「小規模で流動性の低いものが多い」と指摘しています。*26) ECB資料では「The ECB supports strengthening the features of Additional Tier 1(AT1)instruments to reduce the stigma effects associated with banks cancelling AT1 coupon payments when they fall beneath the level of their combined buffer requirements. The challenges associated with market perceptions of the features of AT1 instruments point to a more fundamental concern over the complexity of the capital framework; the ECB supports further work at the international level to consider ways of reducing the overall complexity of the prudential regime.」としています。詳細は下記をご参照ください。https://www.ecb.europa.eu/pub/pdf/other/ecb.responsetothecallforadvice~547f97d27c.en.pdf 22 ファイナンス 2022 Dec.前述のとおり、AT1債には早期償還条項の設定が認められており、典型的には5年あるいは10年後に発行体が早期償還を行う権利を有しています。我が国のAT1債についてはこれまで円建てで発行されている点も特徴です。本稿では基本的に我が国における事例を取り上げていますが、海外のAT1債が話題になることもあります。ここでは海外のAT1債について掻い摘んで説明をします。早期償還条項の行使の有無:コールスキップまず、海外のAT1債で特に話題になる点は、早期償還の行使がなされない事例があることです。これをコールスキップ(コールの見送り)といいます。前述のとおり、早期償還は発行体(この場合、金融機関)の権利ですから、行使するかしないかの判断は発行体の自由であり、早期償還をしないことで調達コストを下げることができるなら早期償還をしないことになります。具体的には、早期償還をした場合、再度、AT1債を発行することを前提にすれば、発行体の再調達コストは、その時に発行されるAT1債の金利に依存します。仮に再調達により調達コストを下げられるなら、早期償還をするインセンティブがあるといえますが、逆に、再調達により調達コストが上昇するのであれば、早期償還をするメリットはありません。事実、海外の事例をみると、早期償還をしないという事例は多数存在します*25。再調達することにメリットがあるかどうかは、当該金融機関の信用リスクに依存しますが、金利水準そのものにも依存する点に注意が必要です。例えば、金利が低下している局面であれば金融機関の信用リスクが変わらなかったとしても、再調達する際の金利は低くなりえ、早期償還するメリットは高いと言えます。その一方で、マーケットでは早期償還条項が行使されないことがネガティブに捉えられることがあります。というのも、発行体がこのオプションを行使しなかった場合、信用リスクの悪化により再調達が困難であることのシグナルになりえるからです。*26*27なお、筆者の理解では我が国ではまだコールスキップの経験はありませんが、これまで繰り返し強調してきたように、あくまで発行体の権利であることを認識する必要があります。また、我が国では金利低下局面が続いていたことが、コールスキップがなされない原因とも考えられます。そもそも、前述のとおり、AT1債における条件として、「償還又は買戻しについての4その他の話題4.1 海外のAT1債BOX 2 AT1債の利払い停止に係るスティグマについて本稿では損失などで資本保全バッファーが棄損された場合、AT1債の利払いが段階的に停止されていくことを指摘しました。こうした制度設計について、コロナ禍での経験を経て、銀行が資本保全バッファーの取り崩しを過度に控える要因となりえる問題が指摘されています。そもそも資本保全バッファーにおいて、通常時に資本を厚くする一方、ストレス期に資本バッファーを取り崩すことが企図されているため、資本バッファーを取り崩すこと自体は本来問題ありません。しかし、銀行はAT1債の利払い停止がもたらしうるスティグマ(不名誉)を恐れ、バッファーの取り崩しを避ける可能性が指摘されています*26。こうした問題意識もあり、近年英欧当局からは、AT1等の複雑な資本枠組みを問題視し、規制資本から外す方向で見直す必要性も指摘されています*27。資本保全バッファーそのものやこれらの論点については次回の論文で詳細に議論を行う予定です。
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