3210 AT1債およびバーゼルIII適格Tier2債(B III T2債)入門 ファイナンス 2022 Dec. 21図表5 AT1債とBIIIT2債の比較PON条項必要あり必要あり自己資本のタイプAT1債BIIIT2債*22) 金融庁告示では、配当・利払停止の完全裁量について、下記のように定められています。 七 剰余金の配当又は利息の支払の停止について、次に掲げる要件の全てを満たすものであること。イ 剰余金の配当又は利息の支払の停止を発行者の完全な裁量により常に決定することができること。ロ 剰余金の配当又は利息の支払の停止を決定することが発行者の債務不履行とならないこと。ハ 剰余金の配当又は利息の支払の停止により流出しなかった資金を発行者が完全に利用可能であること。ニ 剰余金の配当又は利息の支払の停止を行った場合における発行者に対する一切の制約(同等以上の質の資本調達手段に係る剰余金の配当及び利息の支払に関するものを除く。)がないこと。*23) この経緯を知りたい読者は神山(2017)などを参照してください。*24) 日本経済新聞「三菱UFJ、資本増強 月内に新型債券で1000億円」(2015/3/17)を参照。ゴーイング・ コンサーン・トリガー(注記)BloombergでAT1債に分類されるものを合計しており、すべて含まれていない可能性がある点に注意してください(BloombergにおけるSRCHを使い、バーゼルIII対応劣後債に対応する債券を積み上げる形で算出しています)。また、利率については発行時の利率を単純平均している点に注意してください。(出所)Bloomberg図表6 AT1債の発行額(円建て)の推移(億円)16,00014,00012,00010,0008,0006,0004,0002,0000利払停止条項必要あり必要なし必要あり必要なし期間永久性長期性ゴーイング・コンサーン2015201620172018資本の性質ゴーン・コンサーン(%)発行額利率2.51.50.5201920202021年あるいは10年後に早期償還条項が設けられることが多いことから、早期償還がなされることを前提にすると、実質的に、満期は5年あるいは10年ということになります。もっとも、早期償還条項はあくまで発行体がそのメリットに応じて行使するかどうかを判断することができるため、行使されない可能性がある点に注意が必要です。そもそも、必ず早期償還を行うということになると永久性としての要件が弱くなることから、金融庁告示では「償還又は買戻しについての期待を生ぜしめる行為を発行者が行っていないこと」という要件が求められています(前節では指摘しませんでしたが、Tier2にもこの要件は求められています)。我が国ではこれまで早期償還がなされていますが、欧州では早期償還をしないこと(コールスキップ)はしばしば起きています(この点は後述します)。なお、Tier2債と同様、AT1債でも、ステップアップ金利は早期償還へのインセンティブを与えることから禁止されています。利払いの制限AT1債については一定の条件で利払い制限が課される点も重要な特徴です。バーゼルIIIでは、資本保全バッファーとしてCET1比率が2.5%だけ追加で求められていますが、資本保全バッファーの重要な役割は銀行の資本が薄くなってきたときに資金流出を防ぐために配当の支払い等を段階的に止めることです。バーゼルIIIでは資本保全バッファーを導入することで、通常時に資本を厚くすることを求めるとともに、ストレス時には配当制限などを通じて資金流出を防ぐ措置がとられています。AT1債の利払い停止については金融庁告示において銀行の裁量とされていますが、損失などにより当該銀行の資本が薄くなっていき、資本保全バッファーの部分に食い込んできた場合、利払いが段階的に制限される商品性になっています(資本保全バッファーについては次回の論文で丁寧に説明します*22)。AT1債の利払い制限については、マーケットで大きな話題になることがあります。例えば、ドイツ銀行が発行したAT1債の利払いがなされない可能性について、2016年にマーケットで大きな話題になりました*23。投資家からみると、例えば発行体が大きな損失を計上するなどして、CET1比率が低下して、資本保全バッファーを満たせないということが起こった場合、その債券から利子が得られないというリスクを有しています。AT1債の利払い制限についてはコロナ禍でも話題になりましたが、詳細はBOX 2を参照してください。図表6が日本におけるAT1債の状況です。我が国では2015年3月に三菱UFJ銀行が発行したAT1債が最初のAT1債ですが*24、その発行は2016年がピークであり、その後発行量は減っています。利率については低下傾向にあり、2018年からほぼ横ばいに推移しています。3.4 日本におけるAT1債の発行状況
元のページ ../index.html#25