五 償還を行う場合には発行後五年を経過した日以後(発行の目的に照らして発行後五年を経過する日前に償還を行うことについてやむを得ない事由があると認められる場合にあっては、発行後五年を経過する日前)に発行者の任意による場合に限り償還を行うことが可能であり、かつ、償還又は買戻しに関する次に掲げる要件の全てを満たすものであること。イ 償還又は買戻しに際し、自己資本の充実について、あらかじめ金融庁長官の確認を受けるものとなっていること。ロ 償還又は買戻しについての期待を生ぜしめる行為を発行者が行っていないこと。ハ その他次に掲げる要件のいずれかを満たすこと。(1)償還又は買戻しが行われる場合には、発行者の収益性に照らして適切と認められる条件により、当該償還又は買戻しのための資本調達(当該償還又は買戻しが行われるものと同等以上の質が確保されるものに限る。)が当該償還又は買戻しの時以前に行われること。(2)償還又は買戻しの後においても発行者が十分な水準の最低所要連結自己資本比率を維持することが見込まれること。 *18) もっとも、元本削減型をCoCo債と整理するものもあります。例えば、BISのワーキングペーパーでもあり、Journal of Financial Economicsに*19) 秀島(2021)のp.100-101を参照しています。*20) アドマティ・ヘルビッヒ(2014)は「銀行が社債の自己資本への転換を始めるトリガーの条件に近づけば、混乱が起こる可能性がある。なぜなら転換によって利益を享受する投資家がいる一方、損失を被る投資家もおり、銀行の経営者を含めた多くの関係者がトリガー・イベントが発生したかどうかの見極めに影響を及ぼす行動をとろうとする」(p.255)と指摘しています。*21) 早期償還条項により永久性が弱くなるという見方もありますが、早期償還条項の設定はバーゼル規制の基準上も認められています。告示では下記のよ掲載されたAvdjiev et al.(2020)は、元本削減型(Principal write down)もCoCo債に整理しています。うに規定されています。 20 ファイナンス 2022 Dec.にその後資本が厚くなり5.125%以上になったら元本が回復するというAT1債も発行されています(このようなAT1債を「元本回復型」と表現することもあります)。ちなみに、本稿では債券の形式をとるAT1債の発行が我が国で進んでいることから、ここまで債券を前提とした説明をしてきましたが、その他Tier1(AT1)を増やすために、優先株という形式をとることも可能です。優先株の場合、そもそも株式であることから、ゴーイング・コンサーン・トリガーは設定されませんが、PON条項などは求められている点に注意してください。なぜ日本では株式転換型ではなくて元本削減型が普及しているかこれまで元本削減型を例に説明をしてきましたが、我が国でも制度上、株式転換型も許容されています。株式転換型とは、ゴーイング・コンサーン・トリガーにヒットした場合、株式に転換される債券になります。そもそも一定の条件で株式に転換する債券自体は転換社債などの形で広く流通しています。しかし、我が国では筆者が知る限り元本削減型のみが発行されています。海外でAT1債について言及される場合、株式への転換という意味を含むCoCo債(Contingent Convertibles Bond)が紹介されることが少なくないですが、我が国では元本削減型のみ発行されているという意味で、CoCo債は発行されていないと解釈できます*18。この背景として、転換価格の設定が実務的に難しいことや、新株予約権の場合、取締役会の決議が必要など、手続き上の難しさがあることなどが指摘されています。また、元本削減型の場合、普通株も飛び越えて損失吸収することが起こりえる点にも注意が必要です。特にゴーイング・コンサーン・トリガー条件が高く設定され過ぎると、資本が少し薄くなった段階で元本が削減されてしまうということが起こりえます(この点は海外との比較で後述します)。秀島(2021)は、元本削減型であると普通株も飛び越えて損失吸収することもありえることから、元本削減型だけでなく、株式転換型も加わったという当時の議論を紹介しています*19*20。これまで、AT1債として認められる要件として、PON条項に加え、ゴーイング・コンサーン・トリガーの2点を挙げましたが、それ以外に求められている性質もあります。Tier2の要件と類似している部分も多いのですが、AT1債の要件として合計15要件が求められています。Tier2と同様、特徴的な部分のみに焦点をあてますが、その詳細を確認したい読者は金融庁告示や北野・緒方・浅井(2015)などを参照してください。なお、図表5がこれまで説明してきたAT1債とBIIIT2債の性質を比較した表になります。永久性Tier2債と比較した重要な違いとして、(「長期性」でなく)「永久性」が求められている点が指摘できます。株式と負債の重要な違いは満期の有無であり、満期がなければより株式に近い性質を有するといえます。AT1債の場合、満期がないことが要件とされており、これは株式に近い性質を有すると解釈されます。満期がない債券はしばしば永久債と呼ばれています。早期償還条項BIIIT2債と同様、5年以上経過した場合、早期償還を行うことが認められています*21。我が国の場合、53.3 AT1に求められるその他の性質
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