ファイナンス 2022年12月号 No.685
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2.6 日本におけるBIIIT2の発行状況3AT1債について3.1 資本と負債の境界線応 円建てで邦銀初」(2014/6/20)を参照。10.90.80.70.60.50.40.30.20.10*12) 発行額は15億ドル(10年物、コール無し)です。日本経済新聞「みずほFG、バーゼル3対応の劣後債を発行へ 国内銀行で初」(2014/3/14)を参照。*13) 400億円(10年物、コール無し)と100億円(10年、NC5年)の2本立てです。日本経済新聞「債券条件 三菱UFJ2本立て劣後債、バーゼル3対*14) 例えば、2020年6月24日にみずほフィナンシャルグループが起債した10年のブレット債は、利率が0.87%であり、2019年6月13日に発行したブレット債(利率は0.489%)に比べて利率は上昇していますが、例えば、ブルームバーグの記事(「【起債評価】貴重な劣後債、利回りで資金獲得−みずほFG800億円」2020/6/17)では「主幹事によると、市場環境を考慮して昨年6月の前回債と比べ国債や円スワップ対比の上乗せ金利を厚めに設定」とコメントしています。(注記)BloombergでバーゼルIII適格劣後債に分類されるものを合計しており、すべて含まれていない可能性がある点に注意してください(BloombergにおけるSRCHを使い、バーゼルIII適格劣後債に対応する債券を積み上げる形で算出しています)。また、利率については発行時の利率を単純平均している点に注意してください。(出所)Bloomberg10,0008,0006,0004,0002,00020142015201620172018201920202021図表4 我が国におけるBIIIT2債(円建て)の発行状況(億円)12,0000(%)発行額利率 18 ファイナンス 2022 Dec.される傾向があります(実務家は最初の5年は早期償還(コール)がかからないという観点から、ノンコール5(NC5)と表現します。一方、早期償還条項が付されていない通常の債券をブレット債ということもあります)。前述のとおり、我が国では基本的には円建ての債券が主体ですが、米ドル建てなど外貨建てのBIIIT2債も一定程度、発行がなされています。本節からAT1債について説明をしますが、そもそも「その他Tier1(AT1)」とは、服部(2022)で説明したCET1には含まれないものの、前述のゴーイング・コンサーン・キャピタルとして基礎的項目(Tier1)に位置づけられる資本です。AT1とは、Additional Tier1の略(直訳すれば「追加的Tier1」)ですが、日本語では「その他Tier1」と訳されます。債券の性質としてみた場合、AT1債は、CET1よりは損失吸収力が弱いものの、バーゼルIII適格Tier2債に比べると、破綻に至る前に十分な損失吸収がなされる債券と考えられます。前述の劣後債の例からもわかるとおり、株式と負債は単なる二分法ではとらえきれず、その中間的な資金調達手段も少なくありません。例えば、株式にも優先株のように配当を優先的に受けられるものの、議決権ステップアップ金利の禁止金利の支払い方法については、ステップアップ金利が禁止されています。ステップアップ金利とは、例えば、今の金利が1%の固定であるとして、5年後に1.25%になり、6年後に1.5%などという形で金利が徐々に上がっていく(ステップアップしていく)金利の支払い方式になります(こういう利払いがなされる債券はステップアップ債といわれ、通常、仕組債などの形で発行されています)。金利が途中でステップアップしていくと、発行体からすれば金利が上昇していくため、その債券に早期償還条項がある場合、早期償還の権利を行使するインセンティブが生まれます。そのため、ステップアップ金利を認めてしまうと、満期を短くしうることから、長期性としての性質が弱くなると考えられます。最後に日本の発行状況について確認します。我が国では、2014年3月にみずほフィナンシャルグループが邦銀初のBIIIB2債をドル建てで発行しました*12。三井住友フィナンシャル・グループがそれに続き米ドル建て債を発行しましたが、三菱UFJフィナンシャル・グループは2014年6月に円建てでBIIIB2債を発行しています*13。その後、地銀なども含め、主に円建てを中心にBIIIT2債の発行が進みます(後述しますが、AT1債の場合、円建てがメインです)。図表4が発行されたTier2債(円建て)の推移になりますが、2014年から発行が始まり、2017年にピークを迎えています。その後低下傾向にありますが、満期や早期償還条項があることから、定期的に発行される点に注意をしてください。また、利率については2014年以降低下傾向にあり、2020年のコロナ禍に一時的に上昇していますが*14、2016年から横ばいに推移しています。BIIIT2債の年限についてはこれまで10年債が主体ですが、15年債や20年債なども発行されています。早期償還条項が付されていない債券もありますが、早期償還条項がある場合、5年後に早期償還条項が設定

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