AT1債およびバーゼルIII適格Tier2債(B III T2債)入門 ファイナンス 2022 Dec. 17(出所) 日本銀行・金融庁・預金保険機構(2022)「巨大金融機関の破綻処理制度改革の軌跡」より抜粋図表3 預金保険法における破綻処理スキーム(金融危機対応措置:銀行等が対象)名称第1号措置第2号措置第3号措置過小資本時破綻または債務超過時破綻かつ債務超過時(金融機関の秩序ある処理: 銀行、銀行持株会社、証券会社、保険会社、 金融持株会社等が対象)特定第1号措置過小資本時特定第2号措置債務超過または支払停止時 (これらのおそれを含む)*8) 第6条−Q9を参照。*9) 前者の事例はありませんが、後者は足利銀行の国有化が事例になります。*10) バーゼルIIでは初回コール日までが5年未満のものもTier2に算入ができましたが、バーゼルIIIでは算入不可となりました。*11) オプションの詳細は筆者が記載した「国債先物オプション入門」や「債券オプション入門」を参照してください。資本の状況資本増強資金援助一時国有化資本増強・流動性供給資金援助概要るQ&A*8で定められています)。これが発動される具体的な要件は、主に銀行の債務の支払い停止や債務超過およびそれらのおそれです(図表3を参照)。したがって、国際統一基準行について債務超過が起きて、前述の条項が発動された場合、Tier2債が全額元本削減される(例えば読者がBIIIT2債を100円持っていた場合、それが0円になる)ことになります。我が国におけるベイルインの特徴は、発行される債券の社債要項に、特定第二号措置が認定されれば元本が削減されるという実質破綻時免除特約が付される点です。これは社債の契約によりベイルインがなされることから、「契約上のベイルイン(contractual bail-in)」といわれています。しかし、他国では契約上のベイルインではなく、行政が判断したら元本削減等がなされるという形式が採られており、これは「法的ベイルイン(statutory bail-in)」と呼ばれています。なお、本稿では預金保険についての詳細は触れませんが、そもそも、預金保険とは、銀行が預金保険に入ることで、銀行が破綻した場合、預金者に対する一定程度の預金等を保護する制度です。その意味で、通常、銀行が破綻した場合、預金の定額保護がなされます。しかし、我が国又は当該金融機関が業務を行っている地域の信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがあると認められた場合に、第二号措置ではペイオフコスト超の支援を行うこと、また、第三号措置で一時国有化がなされることが定められています*9。前述の特定第二号措置とは、2014年に改正預金保険法の施行に伴い作られたもので、銀行だけでなく、証券会社や銀行持株会社など広い主体を対象にしている点などがその特徴ですが、金融システムに著しい混乱があるときに発動される措置です(預金保険については今後の論文で取り上げる予定です)。これまでBIIIT2債として認められる要件として、PON条項のみを説明しましたが、これ以外にも「劣後性」、「長期性」などの要件が求められています。正確にはTier2の要件として合計10要件が求められていますが、ここでは特徴的な点のみ紹介します(詳細を確認したい読者は金融庁の告示や北野・緒方・浅井(2015)などを参照してください)。劣後性まず、バーゼルIIIにおけるTier2の条件として、劣後性を有している必要があります。具体的には、通常の債券(いわゆるシニア債)よりは劣後するという条件です。長期性また、Tier2の条件として、資本としての性質を高めるため、満期は定めてもよいものの、長期性を満たす必要があるとされています。具体的に、満期は発行後5年以上経過した後に満期が設定される必要があります(5年債以上である必要があります)。早期償還条項発行体が早期償還をする場合は発行から5年以上経過後である必要があります*10。早期償還とは、発行体(この場合、金融機関)が判断すれば満期の前に早期に償還することができる権利(オプション)です。例えば、あるBIIIT2債の満期が10年であり、5年後に早期償還条項が付されているとします。この場合、仮に5年後に発行体がその権利を行使したら、その行使時点で100円で償還されるという仕組みになっています(発行体は100円で買い戻すオプションを買っており、読者はそのオプションを売っているので、その分、Tier2債の金利にオプション料が上乗せされている点に注意してください*11)。2.5 その他の要件
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