ファイナンス 2022年12月号 No.685
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2バーゼルIII適格Tier2債(BIIIT2債)2.1  ゴーイング・コンサーン・キャピタル*4) 秀島(2020)では「バーゼルIIIにおいてはTier1は、going-concern資本、Tier2はgone-concern資本の位置づけをはっきりさせる方向での見直しであった」(p.107)と指摘しています。*5) なお、欧米ではさらに追加的なCET1の上積みが求められています。詳細は下記をご覧ください。 https://www.bankingsupervision.europa.eu/banking/srep/html/p2r.en.htmlhttps://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/bcreg20220804a.htm AT1債およびバーゼルIII適格Tier2債(B III T2債)入門 ファイナンス 2022 Dec. 15服部(2022)で強調したとおり、バーゼル規制では損失吸収力という基準で、会計とは異なる自己資本が定義されました。仮にある銀行の(会計上の)自己資本が1000億円である中、2000億円の損失を計上した場合、残りを預金のみで調達していれば、預金者が損失を計上する可能性があります。その一方、自己資本1000億円に加え、劣後債で1000億円調達していれば、もし仮に2000億円の損失をして破綻したとしても、自己資本の提供者である株主に続き、劣後債の保有者に責任をとってもらえるため、預金者には損失が及ばないと考えられます。仮にある銀行がすべて預金で調達したら、その損失が預金者に及ぶ可能性がありますが、普通株式などによる調達が十分であれば、損失を計上したとしても、株主がその損失を吸収することになります。そもそも会計では継続企業であることを「ゴーイング・コンサーン」といいますが、普通株などは当該銀行の継続を助けることから「ゴーイング・コンサーン・キャピタル(going-concern capital)」といいます。一方、劣後債は上述のとおり、仮に破綻した場合、預金者に損失が及ばないように秩序ある破綻を可能にするための資本といえます。この場合、ゴーン(gone)という破綻の意味合いを込めて、「ゴーン・コンサーン・キャピタル(gone-concern capital)」と表現されます。直観的にはTier1は「生き延びるための資本」である一方、Tier2は、「安全に破綻するための資本」と解釈できます。劣後債の場合、破綻しなければ損失負担をしないため、生き延びている間は資本としては使えない性質のもの、とも言えます。服部(2022)では従来のバーゼル規制において劣後債も一定程度自己資本として考慮されていたところ、金融危機により損失吸収力を高めるという意味で、資本の質の向上が図られたと説明しました。具体的には、バーゼルIIIにおける重要な特性は、Tier1とTier2の分類を、前者がゴーイング・コンサーン・キャピタル(生き延びるための資本)、後者がゴーン・コンサーン・キャピタル(安全に破綻するための資本)という観点で、その要件を厳格化したといえます*4。もっとも、その一方で、Tier2についてもゴーン・コンサーンという観点でその定義を見直したうえで(その定義は後述)、かつて4%まで認められていたところ、バーゼルIIIでは、2%を上限に自己資本に含めることが認められています。図表2がバーゼルIIとバーゼルIIIにおいて求められる自己資本比率について比較したものですが、Tier2の比率が下がるとともに、CET1の割合が上がっていることがわかります。また、各種バッファーにより大幅に資本が求められていることがわかりますが、これらについては次回の論文で説明することを予定しています。服部(2022)ではそもそも銀行が預金取扱機関であり、満期変換機能を有することから規制が課されていると議論しましたが、アーマー等(2020)では、銀行の破綻が他の業態における破綻と異なる点について次のような論点で整理しています。第一に、銀行の場合、破綻の可能性が疑われると、急速にその価値が失われてしまうこと、第二に、銀行業は負債の主体が預金であり、その元本保証が決定的に重要であること、第三2.2 バーゼル規制で求められる自己資本比率ここでバーゼルIII以降の自己資本の定義を確認します。服部(2022)で強調したように、バーゼルIIIではCET1という損失吸収力が高い資本が軸に据えられました(一定の調整項目がありますが、CET1は株式に近い概念といえます)。バーゼルIII以降、国際統一基準行に対しては、資本保全バッファーも加え、CET1比率が7%(=4.5%+2.5%)になることが求められています。また、その他にカウンター・シクリカル・バッファーやシステム上重要な銀行に対する追加的なバッファーも求められています*5。2.3 ベイルアウトとベイルインとゴーン・コンサーン・キャピタル

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