卓上に置かれたゆで玉子と早慣れ寿司(筆者撮影) 紀州名物「和歌山ラーメン」を味わう ファイナンス 2022 Dec. 11和歌山ラーメンの肝といえば豚骨醤油スープだが、その土台が醤油メインの黒く透き通ったものか、豚骨メインのマイルドで濁ったものかで2つの系統に大別され、前者(醤油メイン)が「車庫前系」、後者(豚骨メイン)が「井出系」と称される。「車庫前」というのはかつて存在した路面電車(南海和歌山軌道線:通称「市電」)の駅名で、当時の繁華街である。和歌山の中華そばの歴史は車庫前駅の屋台「〇髙」から始まった。戦後間もなく、車庫前周辺で「〇髙」の味が支持を受けるようになると、他の屋台も「〇髙」の味を模倣するとともに屋号に「〇」をつけるようになったという。芳ばしい香りを放つ醤油ベースの「車庫前系」中華そばが受け入れられたのは、和歌山県が醤油発祥の地であることと無関係ではないだろう。一方「井出系」はというと、言うまでもなく王者「井出商店」に由来する。もともと「井出商店」においてもオーセンティックな「車庫前系」の中華そばを提供していたが、ある日偶然スープを炊き込みすぎて濁らせてしまった。結果、「豚骨のゼラチンがスープと脂をトロリと乳化させ、醤油味がうまくマスキングする『コク深くまろやか、あと味あっさり』」(「井出商店」HPから引用)の味が完成したとされる。まさに怪我の功名だ。本場の和歌山ラーメンを食べ歩こうここまで読んだあなたは今ごろ和歌山ラーメンが食べたくなっていることだろう。できることなら和歌山を訪ね、地元に根付いた「中華そば」を文化ごと味わっていただきたい。その後、「井出系」は「井出商店」の弟子を中心に広がったが、「車庫前系」と比べると少数派である。ただし、前述のテレビ番組の影響に加え、「井出商店」が「新横浜ラーメン博物館」に出店し数々の記録を打ち立てた鮮烈な記憶、さらに「井出商店」の味を模した「まっち棒」(池尻大橋)や市販の即席麺が流行したことから、全国的には「和歌山ラーメン」といえば「井出系」を連想する人が多い。和歌山市の中心部にあり、和歌山ラーメンの草分け的存在である元祖「〇髙」(和歌山・アロチ)や王者「井出商店」(和歌山・田中口)を訪れておけば間違いないが、それ以外にも幾多の名店が存在する。・「〇宮」(和歌山・黒江)昭和24年創業、「車庫前系」の老舗。あっさり目だがコク深い味わい。3代目の若き店主は伝統の味を受け継ぎつつも、スープの改良やツルシコな自家製麺の開発にも果敢に挑み、進化を続けている。・「丸三」(和歌山・紀三井寺)「丸」とつく屋号ではあるが「井出系」。とろみのあるスープは癖になりそうな豚骨臭を放ち、ひとたび食べ出すと箸が止まらない。通は「麺固め・ネギ多め」でオーダーするようだ。・「山為食堂」(和歌山・和歌山市)「車庫前系」にも「井出系」にも属さない独創的な中華そば。ザラとした豚骨スープは丼の底に骨粉が溜まるほどの濃度。和歌山では珍しい太麺でアルデンテな食感が面白い。・「うらしま」(紀の川・打田)筆者の個人的ナンバー1和歌山ラーメンであり、昼間の2時間しか営業していない激レア店。豚骨のみを炊き込んで作られたドロみのあるスープは豚の旨味が満載。塩辛さの中にほのかな甘味が感じられる。白飯との相性は抜群。弟子にあたる「しま彰」(紀の川・甘露寺前)や「今心」(和歌山・日前宮)もハイレベル。「車庫前系」と「井出系」
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