「きいちゃん」「正善」(和歌山・六十谷) 安倍元総理も訪れ舌鼓を打ったという。(筆者撮影)和歌山県PRキャラクター 10 ファイナンス 2022 Dec.和歌山でラーメン?「ご当地ラーメンといえば?」—多くの人は「札幌ラーメン」や「博多ラーメン」と答えるかもしれない。しかし、それらに勝るとも劣らぬラーメンがある。「和歌山ラーメン」をご存じだろうか。昔ながらの三色雷文の丼にはオーカー色の豚骨醤油スープ、その表面を漂うように細ストレート麺。具には豚バラのチャーシュー、メンマ、青ネギ、そして梅の花を模した蒲鉾が存在感を放つ。どこかノスタルジックな気もするが、他のどのラーメンとも異なる特徴的な見た目を有する。ラーメン店になぜ寿司が?実際に和歌山市内の中華そば屋へと足を運んでみよう。軒下のダクトから漏れ出る豚骨臭に食欲を刺激されながら店内に入ると、カウンターには玉子のいくつか入った籠が置かれ、早なれ寿司(しめ鯖の押し寿司)が延べ棒のごとく積まれている。メニューには「中華そば」とだけ書かれており、オプションで「特製」(チャーシュー増し)や「大盛り」(麺増し)を選ぶだけのシンプルなシステムだ。口頭で注文し到着を待っている間に卓上のゆで玉子を一つ手に取り殻を剥いておく。地元の人は単に「中華そば」と呼ぶように、元来それが和歌山特有の食べ物であるという意識は希薄だった。契機となったのは今から25年ほど前。某テレビ番組で「日本一うまいラーメン決定戦」なる企画が行われた。そこで見事頂点に輝いたのが、和歌山市の老舗ラーメン店「井出商店」であった。以降「和歌山ラーメン」という言葉が全国的に定着していくとともに、和歌山の人たちが昔から食べ馴染んでいた「中華そば」が、実は「和歌山ラーメン」なる食べ物だったと認識されることとなる。中華そばが提供されたらまずはスープを一口。程よい豚骨臭を鼻で感じながら、醤油豚骨のまろやかでコクのあるテイストを舌で味わう。見た目に反してしつこくなく、濃厚なのにあっさりとした印象すら受ける。やや柔めに茹でられた細麺はスープをしっかりと持ち上げ、小麦の甘みとスープの塩味・旨味が口内で交錯する。濃い目の味に飽きてきたら今度は卓上の早なれ寿司に手を伸ばす。酢飯のさっぱりとした酸味が口内をリセットしてくれ、濃厚なスープとのマリアージュは抜群。和歌山で800年以上の歴史がある郷土料理は、今では中華そばのお供になっている。ちなみに卓上のゆで玉子と早なれ寿司は勝手に食べて、最後に自己申告制で会計する。これもかつての屋台文化の名残だろうか。和歌山県財政課長 庄中 健太紀州名物 「和歌山ラーメン」を味わう
元のページ ../index.html#14