ファイナンス 2022年11月号 No.684
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中国香港ブラジルインドタイシンガポールエジプトアラブ首長国連邦サウジアラビアロシア0 0PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 13ファイナンス 2022 Nov. 75(海外公的部門と海外民間部門)図3-2  海外投資家の米国債のネット売買高 図3-3 主要新興国の米国債のネット売買高危機前からの変化率(%)図3-4 海外民間投資家の米国債ネット売買高(10億ドル)*6) 2020年4月に5月の原油先物価格はマイナスを記録した。(10億ドル)400200-200-400-60050403020100-10-20-30-40-50-60200100-100-200-300-400累積、新型コロナ危機は2020年3-5月累積。(出所)Weiss(2022)より作成。(注)世界金融危機は2008年9-11月累積、新型コロナ危機は2020年3-4月累積。(出所)Weiss(2022)より作成。(注)(出所)図3-3に同じ。2008年2011年世界金融危機ユーロ債務危機短期債中長期債2008年 世界金融危機海外公的海外民間2020年新型コロナ危機(注)世界金融危機は2008年9-11月累積、ユーロ債務危機は2011年8-10月2008年世界金融危機2020年新型コロナ危機2020年 新型コロナ危機逃避は見られなかった。米国債のネット売買を地域別でみると、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、ロシア等の産油国の米国債の売り越し幅が大きい(図3-3)。これらの地域は、従来、原油輸出により得た外貨(準備)を米国債で運用しているが、2020年3、4月の新型コロナショック時は全世界的な経済活動の停止で原油需要が大幅に減少、原油価格が大暴落した*6。その結果、歳入を原油収入に大きく依存する産油国での緊急の資金確保のため、米国債が多く売却されたとみられる。また、Weiss(2022)や岡本(2020)、川澄、片岡(2020)によれば、海外民間投資家も手元資金需要が急激に増加し、特に、ミューチュアルファンド(投資信託)による解約増加に備えた手元資金確保のため米国債売りの動きが進んだ。特に償還期間が長い財務省中期証券(Treasury-Notes)と10年超の利付き長期国債(Treasury Bonds)が多く売られた(図3-4)。その結果、2020年3月中旬に米国債の金利は大幅に上昇した。もっとも、その後、FRBの米国債の大量購入が中心的な役割を果たし長期金利は安定化した(Vissing-Jorgensen(2021))。また、米国債のネット売買は2020年後半には新型コロナ危機前のトレンドに戻っている。よって、新型コロナ危機時の海外部門による米国債売却は安全性を揺るがす構造的な変化ではなく、一時的な現象だったとの見方が多い(Weiss(2022)など)。(2)米国債がグローバルな安全資産である重要な要因には他国と比べた米国債供給量の「大きさ」4.まとめと議論本稿では、米国債がグローバルな安全資産である背景を探るために、安全資産の特徴やその決定要因について整理した。要約すると以下のようになる。(1)安全資産とは、市場ストレスがある時でも価格が下がらない(価値保蔵)、高い流動性(いつでも米ドルなど信用力のある決済通貨に交換可能)を特徴とする。

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