ファイナンス 2022年11月号 No.684
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*4) 国債供給と金利の関係についての分析は小枝(2021)を参照。*5) フォワードプレミアムは予約レートと現在の為替レートの差。(注)米国債プレミアム=(他国金利-米国金利)-フォワードプレミアム*5(資料)Du et al.(2018)のアップデート版より作成。vs.ドイツ国債vs.英国債vs.日本国債199920012003200520072009201120132015201720192021(1)「大きさ」と「流動性」(2)「大きさ」と「借り換えリスク」3.1 米国債プレミアム縮小3.2  新型コロナ危機時における海外部門による米国債売却3. 米国債の安全性に関する実証研究:近年の米国債の安全性の変化 74 ファイナンス 2022 Nov.経済規模の小さな国の国債市場で平時に需要が旺盛であれば、すぐに供給量に達し、需給が逼迫、価格が上昇、利回りが低下しやすい。そのため、利回りを追求した場合、保有する魅力が薄れる。一方、米国のような大きな国債市場は世界中に投資家を生み出し高い流動性を作り出す。市場に厚みが生じ、価格が安定的になる(市場が大きいため、需要増により急激に価格上昇することがなく、利回りが急に大きく低下しない)。つまり、他の条件を一定とすれば比較的高い利回りを生み出す大きな国債市場の方が魅力的となる。一方、グローバルに存在する安全資産の需要では満たせないほどの大きい債務残高となると、借り換えリスクが生じる。この場合、投資家は借り換えリスクの小さい国の国債市場(少数の投資家需要で十分な国債発行を満たせる)へと移る。以上、(1)(2)から、グローバルな投資家は国の「絶対的な特徴」より、「相対的な特徴」を重視する。世界金融危機時のように「絶対的」に国の財政状況が悪化したとしても米国国債が他国の国債より、相対的に借り換えリスクが小さいのであれば安全への逃避が起こり米国債へ資金が流れる。一方、「相対的な評価」はグローバルに存在する安全資産の需要に限りがある場合に、より重要になる。各国間の借り換えリスクに大きな違いがあった際には、投資家は他の投資家もリスクの小さい国債を買うと考え、追従し、借り換えリスクが大きい国から資金を引き上げる。以上、安全資産の特徴とその決定要因について整理した。本節では近年の米国債の安全性に関する実証研究を整理する。国際金融市場で裁定取引が働いている場合、為替リスクをヘッジした他国の運用収益率と米国債の運用収益率は等しくなり、両者の差はゼロになる(カバー付き金利平価の成立)。一方、プラスのかい離が存在する場合、米国債が相対的に低い収益率にも関わらず運用されているという米国債プレミアムが存在していることを意味している。Du et al.(2018)は米国債と他国の国債の利回り関するカバー付き金利平価からのプラスの乖離を米国債プレミアムとして計算している(図3-1)。2000年代に存在していた米国債プレミアムが近年ではドイツ国債、英国国債などについて縮小傾向にある。Du et al.(2018)は他国との財政スタンスの違いから、米国の国債供給量が他国と比べ増加、需給が緩み、金利の押し下げ幅、すなわち米国債プレミアムが小さくなっていると指摘している*4。*5図3-1 5年物米国債プレミアム(ベーシスポイント)160140120100806040200-20-40-602008年の世界金融危機、2011年の欧州債務危機の際は、安全資産とされる米国債へ資金が流れた(図3-2)。これらの動きは、価値の下がらない安全資産へと資金が流れる典型的な例であった(安全への逃避)。一方、2020年3月、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大した際、海外投資家が米国債を大量に売却し、金利が上昇、これまでの危機に見られた安全への

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