ファイナンス 2022年11月号 No.684
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987654321790 02000PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 13ファイナンス 2022 Nov. 73図1−2 世界の中央銀行が外貨準備を持つ主な理由(資料)米国財務省より作成。海外公的海外民間20042008将来の対外的なショックに対する予備為替介入の実行対外債務の返済金融政策のサポート世代間公平のための貯蓄その他*3) 経常収支は貿易・サービス収支と所得収支、金融収支は金融資産と負債の受け支払いの項目(直接投資、証券投資、金融派生商品、その他投資、外貨準備)が含まれる。国際収支統計についての解説は棚瀬(2019)が丁寧に行っている。201220168067552950(注)世界119カ国の中央銀行へのアンケート集計。(資料)World Bank(2021)より作成。25752020100(%)(出所)筆者作成。流動性(価格安定)米国債供給量の大きさトレードオフ借り換えリスクその他の要因(十分な安全資産需要、良い財政状況)1.3.安全資産需要の国債利回りへの影響2.グローバルな安全資産の決定要因では米国債はなぜ日本やドイツの国債と比べて海外投資家からの安全資産としての需要が大きいのであろうか。He, Krishnamurthy and Milbradt(2019)は、米国債がグローバルな安全資産である背景として米国債供給量の「大きさ」があることを理論的に分析している。ただし、その「大きさ」は諸刃の剣であり、(1)「流動性」と同時に生じる(2)「借り換えリスク」とのバランスが必要である(図2-1)。図2−1 安全資産の決定要因以上から米国債にはグローバルな安全資産としての需要が常に一定程度存在する。結果、この海外需要は米国債の利回りの押し下げ要因になっている。米国の長期金利の決定の海外要因が注目され始めたのは、2005年当時の米連邦準備理事会(FRB)の議長と理事の一連のスピーチがきっかけである。Greenspan(2005)はFRBが政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利を引き上げ続けたにもかかわらず長期金利が上昇しなかったことを「謎(conundrum)」と言及し、その後、Bernanke(2005)が中国・アジア諸国と中東諸国などの原油輸出国の外貨準備を通じた米国債購入が長期金利押し下げ要因となっているという“世界貯蓄過剰(Global saving gluts)説”を唱えた。ぐために予め安全資産を保有する動機を持っている。さらに、実際に世界景気の先行きが危うい時(リスクオフの状況)には新興国・途上国の株や低格付け債券などリスク資産から米国債などの価格が安定した安全資産に資金が流れる(“安全への逃避”と呼ばれる)。図1−1 米国債の海外保有内訳(公的、民間)(兆ドル)また諸外国の米国債保有は、米国の世界一の規模の経常収支赤字が密接に関連している。国際収支統計の経常収支と金融収支は定義上ほぼ裏表の関係になっている(この他に資本移転等収支と誤差脱漏がある)*3。米国の場合、貿易相手国が米国向け輸出で稼いだ外貨を米国の債券市場に投資をする傾向があり、米国にとっての主要輸入先である日本や中国は、1、2位の米国債保有国になっている。

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