ファイナンス 2022年11月号 No.684
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(1)現状(2)展望令和4年8月26日(金)開催1 休戦シナリオ一番ありそうなシナリオは、ウクライナの反攻に対してロシアが態勢を立て直して戦線の膠着状態が続き、それをやっているうちに仲介者が間に入って一応の休戦ができるというというものです。今回の場合、ロシアは当事者ですが、アメリカもヨーロッパ、NATOも当事者ではないので、当事者であるウクライナの主張を西側としては抑え込んで休戦することはできません。朝鮮戦争における北緯38度線のような明確な現状に戻る線もありませんので、例えば、ロシアとしては、クリミアは既にもう自国の一部であるとしているので、ロシアが妥協してクリミアをウクライナに返す、渡すということは政治的にものすごくコストが高いということがあります。そういうことから言うと、両国が休戦に対するステークが高い状態にならないと休戦に至らない可能性が高いということで、今のところどういう形で休戦が実現するかが見えない状況です。2 戦争拡大シナリオ2番目のシナリオは、ロシアによる戦争のエスカレーションであります。この戦争はウクライナの背後にいる西側との戦いが本当なのだ、と言ってエスカレーションするというのが政治的には納得を得られやすい言い方ですので、そうだとすると、エスカレーションと同時に部分的にでも戦線を拡大する可能性がかなりあるだろうと思います。とりわけカリーニングラードという飛び地にロシアが回廊を設定することを一つの口実として、ポーランド、バルト三国に対して軍事攻撃をかけるということはありうると思います。1.ウクライナ戦争の現状と背景講師演題 64 ファイナンス 2022 Nov.最初にウクライナ戦争の現状と背景について簡単にお話いたします。2月24日にロシアのプーチン大統領が特別軍事作戦の開始について長い演説を行いました。すなわち、ロシア人勢力が独立を宣言したウクライナ東部の2州において、ロシア人に対する虐殺が行われており、救援してほしいという依頼が来ているので、特別軍事作戦を始める、というものです。ウクライナの首都キーウを目指した大規模侵攻が同時的に行われることになって、事実上の戦争となりました。それ以降3月末まではこの戦争の第一段階と呼ばれており、首都キーウをめぐる攻防が焦点となっていたと思います。結果的にはロシアのキーウ攻略戦が失敗に終ったことは動かないところかと思います。4月以降は攻撃の焦点を東部のドンバス地域の制圧に集中するようになっていきます。そのあと今日に至るまで、全体としてはロシアにとって目覚ましい成果は上がらずに、徐々に戦線は膠着状態になっている、というのが今の状況であります。先週あたりから報じられるようになってきましたが、ウクライナによる反攻あるいは攻撃が本格化しているのが現状ではないかと思います。マクロの視点で考えたときのこの戦争の帰趨は、3つのシナリオのいずれかになるのではないかと思います。令和4年度夏季職員 トップセミナー中西 寛 氏(京都大学大学院法学研究科教授)ウクライナ戦争の 歴史的意味について−『大きな物語』の喪失と『危機の30年』

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