ファイナンス 2022年11月号 No.684
66/92

3 アフリカの今後への個人的な想像さて、ここで今回の結語も兼ねて、(1)から(3)で指摘した文脈を改めて整理してみるとともに、アフリカの今後を想像して(speculate)みたい。アフリカにおける民間主導の開発、スタートアップ企業の興隆、サービス産業主導の成長というのは、政府の能力が必ずしも高くないことやアジアなどの他地域の農業・製造業における生産性が非常に高いことなどを所与の条件として受け止め、アフリカの人々自身のアフリカを成長させたいとの強い意志を反映する形で、「人々の生活の改善に向けた試行錯誤がなされている」ということである。特にスタートアップ企業の活動は、人々の「こうだったら良いのに」「もっとこうできる」という欲求に応える文字通りの試行錯誤である。今後、アフリカに限らないスタートアップ企業の運命として、多くの企業が淘汰され、成功している企業も整理統合される形で規模を持つようになっていくだろうと思う。また、それと同時並行する形で、国際社会の支援も得ながら、政府や大企業によりインフラを含む社会経済基盤が整えられていくだろう。そして、この2つの動き(スタートアップ企業等による人々の欲求にこたえる動きと社会生活基盤の整備)がかみ合えばかみ合うほど成長が早まると言えるのでは*34) 前述の注33)の研究のほか、例えば、 Di Meglio, G., Gallego, J., Maroto, A. and Savona, M., 2015. Services in Developing Economies:A new chance for catching-up?. SPRU Working Paper Series 2015-32, SPRU - Science Policy Research Unit, University of Sussex Business School.*35) このほか、伝統的には、農業による収入増が、農村における教育投資や非農業のビジネスへの投資を引き上げる効果があるとされる。また、食糧価格の低下により、前述の労働コストを引き下げる効果も期待できる。 62 ファイナンス 2022 Nov.との論点について、デジタル技術を活用したサービス産業が持続的な経済発展を促すことができるという研究も出てきている*34ほか、前述のスタートアップ企業の増加等を通じてイノベーションも一定程度起こっていると思われる。このため、工業化が進んでいないことのみをもって、アフリカの将来を悲観することはないと思っている。さらに言えば、この状況は、アフリカの政治家やリーダーにとっては前例のない発展の模索が必要という難題を突きつけるものであるものの、敢えて割り切って書けば、日本にとってはビジネス上の「参考情報」でしかないと思う。アフリカが生産工場として適切な場であることは日本企業が成長するアフリカ市場から裨益するための必要条件ではないし、ましてや、アフリカの工業化の発展に日本企業が義務を負っているわけではなく(コスト面などから経済的に合理的になれば、アフリカで生産すればよい)、「アフリカは、アジアとは異なる。潜在的な生産工場ではなく、市場として見た方が良い」といったことを示唆しているに過ぎない。一方、農業分野全体(農作物の生産・加工・販売だけでなく、肥料等の農業資材に係るビジネスなどを含む関連分野全般)については、多少無理をしてでも現状を変えていく努力が必要だと思っている。アフリカにおける農業が、他地域との競争に負けてしまって振るわないのだとすると、無理は望ましくないとの見方もあろうが、将来の世界の人口増を考えると、世界的な増産が必要であり、アフリカ自身の増産は必須だろう。アフリカでは、現時点で、生産性が非常に低く、収穫後の損失(Postharvest Loss)も深刻であるため、既存の技術でも十分に改善・増産が見込める。Postharvest Lossとは、収穫後の保存中に害虫被害にあったり、出荷時に紛失したりすることなどによって作物が損なわれることであり、アフリカでは日本では想像できないほど大きい。例えば、Affognon et al.(2015)によれば、トウモロコシでは21%、マンゴーに至っては91%が失われるとされる。しかしながら、関係者の意識改善を含めて対策を取れば、前者を4%、後者を20%に減らすことができるとされる(ibid)。さらに、何よりも大きいのは、アフリカの労働人口の5割超が農業に関わっていることを考えると、農業分野の改善による他分野へのポジティブな波及効果が非常に大きいということだ。例えば、前述のスタートアップ企業には、社会課題の解決を企図するものも多いわけだが、エネルギー、保健、農業などの分野を問わず、利用者から十分な料金を取れるか否かは死活問題であり、農業の生産性向上により、幅広い人々の所得が少しでも上がることの効果は大きい*35。

元のページ  ../index.html#66

このブックを見る