ファイナンス 2022年11月号 No.684
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Séronie, J.M. and Jacquemot, P., 2020. Agricultural Land Available In Sub-Saharan Africa. International Journal of Agriculture, 4(2), pp.17-32.ファイナンス 2022 Nov. 61 *20) この点、本当に農地として活用できるのかについては議論がある。例えば、下記の研究。 *21) 例えば、Gelb, A., Ramachandran, V., Meyer, C.J., Wadhwa, D. and Navis, K., 2020. Can Sub-Saharan Africa be a manufacturing destination? Labor costs, price levels, and the role of industrial policy. Journal of Industry, Competition and Trade, 20(2), pp.335-357.*22) 労働コストが所得水準の割に高い理由については、前述のDani Rodrik (2015、2018)やGelb et al.(2020)では、フォーマルセクター(例えば、近代的な製造業等)が、インフォーマルセクター(例えば、路上販売等)から飛び地のように完全に区分されている(enclaveされている)ことが要因の一つとする。仮にそうだとすると、教育が量・質ともに高くないことが背景の1つであると考えるのが自然である。なお、日本でも、戦前、近代的な技術を採用する大企業が質の良い労働者を囲い込み、中小企業の労働者との間で大きな賃金等の格差(「二重構造」と称される)があったとされる。*23) 資源が豊富な国については、その輸出により為替が増加する結果として、それ以外の工業・農業が衰退したり(オランダ病)、輸入依存や高消費体質となったりするほか、資源による収入の分配において汚職が蔓延したりするなどの悪影響(いわゆる「資源の呪い(Resource Curse)」に悩まされる国が多いとされる。ただし、資源が豊富でもしっかりとした政治や経済運営を行う国もあるほか、アフリカの資源依存度も国によって様々である。例えば、コンゴ共和国のように資源による収入がGDPの50%を超える年も度々ある国から、ガーナのようにGDPの10%程度で推移している国、さらには、ボツワナのようにGDP比で2%以下の年がほとんどで資源収入に頼らない国まで存在する。なお、労働コストが高い状況は、資源依存が少ない国でも指摘されており、資源の呪いだけが要因ではないと考えられる。*24) 以下の世界銀行の研究は、アフリカの軽工業への参入に係る課題を分析しているので参照されたい。なお、同研究は、それらの課題が解決されれば、アフリカは軽工業により裨益できるとする。 Dinh, H.T., Palmade, V., Chandra, V. and Cossar, F. eds., 2012. Light manufacturing in Africa:Targeted policies to enhance private investment and create jobs. World Bank Publications.*25) 例えば、Oqubay, A., 2018. The structure and performance of the Ethiopian manufacturing sector. African Development Bank *26) https://group.cemoi.com/about-us/history/*27) https://www.theheinekencompany.com/newsroom/with-brassivoire-heineken-and-cfao-open-one-of-west-africas-most-modern-Group.breweries-in-abidjan-cote-divoire/*28) https://nichecocoa.com/*29) https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/08/f52b168ba2d6221e.html*30) https://www.toyota-tsusho.com/press/detail/210630_004853.html*31) https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/04/c1258b2b912cc1bd.html*32) 例えば、 Fort, T.C., Pierce, J.R. and Schott, P.K., 2018. New perspectives on the decline of US manufacturing employment. Journal of Economic Perspectives, 32(2), pp.47-72.*33) 例えば、International Monetary Fund, 2018. Manufacturing jobs:implications for productivity and inequality. World Economic Outlook.活用されていない土地も目に付く*20。サービス産業化が工業化に先行している要因については、学問的にも分析され始めたところであり、見方が確立していないのではないかと思うが、安定した電気供給の有無といったインフラの問題もさることながら、アジアなどに比べ所得水準が低いにも関わらず、実は賃金等の労働コストが高いことも指摘されて始めている*21。この点、教育の質*22、資源依存から来る経済構造の歪み*23など、アフリカが抱える問題が複雑に絡み合った結果であると考えられ、こうした問題の解消には時間がかかることから、工業化がなかなか進展しない状況はしばらく継続するのではないかと思う*24。ただし、これも、やはり国や分野次第であり、例えば、エチオピアは、繊維や皮革などの製造業の誘致に力を入れ、一定の成果を上げているとされる*25。ちなみに、注21で触れたGelb et al.(2020)でも、エチオピアは、バングラデシュと同程度の労働コストと推定されており、安い労働力を軸に発展していく可能性があるとする。また、アフリカの需要を主眼としたアフリカ現地での生産は既に進みつつある。私の住むコートジボワールでは、フランスのチョコレート会社のCemoiが2015年に生産工場を設置した*26ほか、世界的なビールメーカーのHeinekenも2017年に豊田通商が出資するCFAOと共同出資する形で現地生産の工場を設置している*27。隣国のガーナでも、チョコレートの現地生産が2007年からガーナ現地企業のNicheにより行われている*28ほか、近年、フォルクスワーゲン*29、トヨタ*30、日産*31が現地生産を始めている。そのほか、北アフリカでは、モロッコで国内需要向けにおむつやお菓子等の生活用品の生産をグローバル企業から請け負う工場、チュニジアでグローバル企業から請け負って輸出向けの自動車部品を製造する工場を見学したことがある。仮にアフリカが消費市場としてさらに堅調に成長すれば、こうした現地生産もさらに増加するだろう。なお、個人的には、アジアなどの他地域における農業や工業が、労働節約技術を含めて高い技術を搭載する設備を使い、規模の経済が働くような大規模でなされていることを考えると、農業や軽工業への参入がかつてほど容易とは思えず、IT技術の進展とも相俟ってサービス産業の方が先に発展することは割と自然なのではないかという気もしている。また、製造業における雇用が減っているのは前述の労働節約技術の発展等を背景とする世界的な現象であり、先進国*32はもちろんのこと、他の途上国*33でも見られるのであり、かつてのように雇用吸収力のある製造業がどの程度あるのかという論点もあるのではないかと思う。さらに、サービス産業が経済発展をけん引できるのか否か

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