ファイナンス 2022年11月号 No.684
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Rodrik, D., 2018. An African growth miracle?. Journal of African Economies, 27(1), pp.10-27.https://www.afdb.org/■leadmin/uploads/afdb/Documents/Generic-Documents/Brochure_Feed_Africa_-En.pdf*15) e-Kakashiの実践・実証ついての日本政府の支援は、アフリカ開発銀行を通じたものよりも、米州開発銀行を通じたラテンアメリカ向けの支援や、外務省のNGO連携無償資金を活用したエチオピアへの支援が先行する。アフリカ開発銀行を通じた支援については、今夏、ソフトバンクやササカワ・アフリカ財団と協力する形で、同実践・実証をエチオピアの他地域やナイジェリアに拡大することを新たに承認したところである。前述のベナンの大臣は、これを聞きつけ、ベナンでの同様の取組を要請してきたのである。*16) 例えば、Rodrik, D., 2016. Premature deindustrialization. Journal of economic growth,21(1), pp.1-33. *17) 例えば、https://ourworldindata.org/africa-yields-problem*18) 蛇足になるが、このエッセーの推敲過程にて、実地で得た直感をデータで確認することが重要であると改めて感じたので共有したい。私は、ほぼ全ての南アジアと東南アジアの国を訪れたことがあり、それらの国の郊外では、発展レベルが低いとされる国も含めて、整然とした広い農地が目に入ることが多かった。一方、アフリカについては、私が訪問した国は10か国に限られるが、アジアほど整然とした農地が目につかない印象だった。このため、私は、アフリカはアジアに比べて小規模農家が多いとの印象を持っていた。しかしながら、東京大学の鈴木綾教授より「アジアも小規模農家が多いのでは」との指摘を受けて、種々のデータや研究(Word Bank 2022, Lowder et al. 2016など)を確認したところ、1人当たりの農地面積や農家の規模は、インド・インドネシアとエチオピアが同程度であるなど、両大陸で分布が似通っていた上、平均的にはむしろアフリカの方がアジアより大きかった。なお、現時点では、両大陸の見た目の印象の違いは、商業化の程度の違いによるのではないかと思っている。というのも、Masters et al. (2013)によれば、「アジアの食糧生産の半分から3分の2が完全に商業的に行われているのに対し、アフリカの農家のほとんどが自給自足をやや超える程度(semi-subsistence)」とされ、これが、農地が特定の地区に集約されているか否か、農地が農地らしくみえるか否かなどの違いにつながり、前述のような印象の違いにつながっているのではないかと暫定的に仮定している次第だ。今後も、本論点に限らず、適切なフィールド感を形成するよう努力したい。 World Bank. 2022. World Development Indicators. Lowder, S.K., Skoet, J. and Raney, T., 2016. The number, size, and distribution of farms, smallholder farms, and family farms worldwide. World Development, 87, pp.16-29. Masters, W.A., Djurfeldt, A.A., De Haan, C., Hazell, P., Jayne, T., Jirström, M. and Reardon, T., 2013. Urbanization and farm size in Asia and Africa:Implications for food security and agricultural research. Global Food Security, 2(3), pp.156-165.*19) African Development Bank, 2017. Feed Africa. Brochure. (3)ユニークな発展経路 60 ファイナンス 2022 Nov.てくれる場合があることも付け加えておく。特に、小さい国では、民間出身者が大臣に指名されることも多く、小回りも聞く印象だ。起業の事例ではないが、私が関わった農業関係の取組(ソフトバンクが開発したe-KakashiというITを活用して、農業生産性を高め、かつ温暖化ガスの排出を抑制する技術のアフリカでの実証・実践*15)では、コンセプトを話し合うワーキング・レベルの打ち合わせに、ベナンの投資担当大臣が自ら出席し、積極的に発言していた。私の印象では、アフリカの大臣は自分で判断する優秀な人が多く、国の姿勢とスタートアップ企業の取組がうまくかみ合えば、大きな革新を遂げることができるかもしれない。日本が希求する水素発電も、もしかするとアフリカのどこかの国が最初の実践の地になるかもしれないのである。三つ目の特徴は、アフリカのとっている発展経路が、欧米、日本、アジアなどが辿ってきた伝統的な発展経路と異なっているという点である。伝統的には、産業構造は、農業、工業、サービス業との順で発展していくとされる(ペティ・クラークの法則)。また、この農業から非農業のへの産業構造の変化は、農業も速いスピードで成長しているものの、工業・サービス業の成長スピードがそれを更に上回ることによって起こってきた。つまり、産業構造の高度化の中で農業の生産性も飛躍的に高まってきたのである。さらに、工業化については、繊維産業など、必要な資本(設備)が少なく、安い労働力を活かせる産業から発展し、そうして蓄積した資本を活用して重工業等に進んできた。こうした発展経路については、日本において、戦前には農業・繊維産業が発展し、戦後に鉄鋼業や自動車産業などの高度化が進んだこと、高度成長期には、都市への移住の加速などによる農業分野での労働力不足に対応して農業の機械化や生産性の向上が見られたこと、さらには、1980年代後半から、製造業の担い手が日本を含む先進国からアジアなどの途上国へ移行してきたことを思い返すと分かりやすい。一方、アフリカにおいては、労働人口が、農業から工業へ移るのでなく、農業からサービス産業に移行しており、経済成長しているにも関わらず、工業化がさほど進んでいないことが指摘されている*16。また、農業の生産性もさほど向上しておらず、他地域と比べて極めて低い*17。実は、アフリカの多くの国が、アジアやラテンアメリカから食料を輸入しているが、その理由の一つは、アジアやラテンアメリカから食料を輸入する方が安くかつ安定しているためである。つまり、農業でもアジアなどの地域に太刀打ちできていないのだ。アフリカとアジアの農地の様子を比べると、アジアの農地の方が明らかに整然としており、商業化の程度の違いや生産性の違いが見て取れる*18。また、潜在的に耕作地として利用可能であるが未活用の土地の65%がアフリカにあると言われる*19が、実際、農地に適しているように見えるにも関わらず、農地として

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