ファイナンス 2022年11月号 No.684
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ファイナンス 2022 Nov. 59 *13) https://partechpartners.com/2021-africa-tech-venture-capital-report/*14) https://news.bloomberglaw.com/private-equity/funding-for-african-startups-more-than-doubles-in-■rst-half起業ができる」場であると言える。先日、三菱商事とチュニジアの商工会議所が主催したTICAD8のイベントにおいて、アフリカで起業する一人であるMansoor Hamayun氏と話す機会があった。同氏は、太陽光発電などの再生可能エネルギーを活用し、エネルギーアクセスを高める事業などをアフリカで手掛けるBboxx社を2010年に創業し、2019年には三菱商事の資本参加も得て、現在では、ルワンダ、ケニア、トーゴなどアフリカ10か国で35万の契約者に電力を供給している。お会いした際に、私から「なぜ、このビジネスを始めたのか」と尋ねたところ、「英国のインペリアルカレッジで電気工学の勉強をしたが、アフリカにおけるエネルギーアクセスが過去数十年であまり進捗せず、エネルギーアクセスのない人がアフリカに集中していることを知りショックを受けた。このため、せっかく勉強したのだから、エネルギーアクセス改善のために何かしたいと思い、友人とこのビジネスを立ち上げた」とのことだった。起業のモチベーションは、人によって様々だと思うが、「目の前にいる人に対してポジティブな変化を与えたい」というのは大きなモチベーションの一つであり、アフリカは、そうした起業家を集めやすい状況にあると言える。ちなみに、Bboxx社の共同創業者は3人で、パキスタンとスウェーデンの二重国籍者、イギリス人、ベルギー人であるが、出自としてアフリカに関係がある訳でなく、自らの意思で事業の場としてアフリカを選んだのである。実際、世界的なスタートアップ企業の興隆も背景として、アフリカにおけるスタートアップ企業は急増しており、2015年には3億ドルに満たなかった資金調達額が、2021年には52億ドルに上ったと言われている*13。さらに、世界的な景気後退にも関わらず、資金調達額は、今年(2022年)の前半だけで30億ドル以上、年末には70億ドルに達すると言われている*14。こうした動きは、ナイジェリア、南アフリカ、エジプト、ケニアといった比較的大きな国だけでなく、ガーナ、セネガル、モロッコ、チュニジアなど、アフリカの幅広い国で活発であるし、分野も農業を含めて多岐にわたる。この動きの裏側には、前述のTony Elumelu財団を含め、多くの投資家、投資ファンド、さらには、各地に設立された起業支援を行うラボ(有望なスタートアップ企業にワークスペースや会計・法律などに係るサービスを提供する場)が、incubator(孵化)機能を発揮していることがある。このように、アフリカでは、起業を助けるエコシステムが着々と築かれつつある。アフリカにleap frog(蛙跳びのような急速な変化)が多いと言われるのも納得できる。さて、ここで共有したいのは、これらスタートアップ企業のビジネスモデルが、前述の民間主導の開発の流れと軌を一にして、政府の補助金等に頼らず、純粋にビジネスとして収支相償することを基本にしていることだ。これは、企業活動なので当たり前と言えば当たり前なのであるが、寄付金等に支えられて従前からアフリカで行われている非営利団体による活動とは、関わる人のマインドが随分違うように感じているので特筆した。ただし、非営利団体から企業に転換したり、スタートアップ企業も社会課題の解決に非常に理解が深い投資家に寛容に支えられたりしていることもあると聞くため、実際は、この中間の形態も多くあるのだと思う。また、有望なスタートアップ企業は、ビジネスとして成り立たせるための「ひと工夫」をしっかりとしていることも共有したい。さきほどのBboxx社を例にとれば、アフリカでのエネルギービジネスで頻出の問題である「電気料金を契約者から取れない」ことに対応することが重要であるが、同社は「料金の前払い制(pay as you go形式)を採用し、料金の支払いがなければ電気へのアクセスを自動的にストップする仕組みを組み入れることでその実効性を担保する」ことにより対応している。ちなみに、このような工夫は、フィリピンのバイクローンなどにも見られる仕組み(バイクローンを支払わないと自動でエンジンがかからなくなる)であり、途上国でのビジネスでしばしばみられる手法の一つだ。こうした動きの中で、政府が果たす役割は様々であるが、資金的に政府に頼らないにしても、政府の理解が重要なことは論を待たない。この点、前述の起業支援ラボを国が支援している場合もあるほか、国によっては、各国の大臣自身が、非常にアクティブに関わっ

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