ファイナンス 2022年11月号 No.684
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*9) アフリカ開発銀行には81の加盟国があり、加盟国による選挙によって20人の理事が選任されている。ここでいう「ナイジェリア理事」とは、この20人のうちの1人としてナイジェリアなどから選ばれた理事であり、私の同僚である。私の場合は、日本のほか、アルゼンチン、オーストリア、ブラジル、サウジアラビアに選んでいただいており、「日本理事」と呼ばれることが多い。*10) 集積に関連する数値として人口密度の数字を紹介する。アフリカの人口密度は大陸全体としては低く、前述の国際連合の人口統計によれば、2021年時点で47人/km2である。しかしながら、地域的な偏りがあり、例えば、私が住む西アフリカはアフリカの中では人口密度が比較的高い。2021年において、人口大国であるナイジェリア(234人/km2)だけでなく、トーゴ(159人/km2)やガーナ(144人/km2)でも比較的高く、東南アジアの平均(152人/km2)と■色がない。さらに、将来的には、2050年時点でナイジェリアは414人/km2、トーゴは284人/km2、ガーナは229人/km2と高度成長期の日本(1960年で251人/km2、1970年で280人/km2)と同程度か、それを超える水準になると推計されている。*11) 世界銀行のレポート(Croitoru, L., Miranda, J.J. and Sarraf, M., 2019. The Cost of coastal zone degradation in West Africa.)によれば、こうした海岸浸食は、ナイジェリアだけでなく、ベナンからセネガルまで西アフリカ全体見られるとされる。今後、ラゴスのように海岸部に位置する都市への集積が進んでくれば、埋立てを行う経済合理性は増していくものと考えられる。*12) 気候変動による豪雨の増加や都市化が相俟って、私が住むコートジボワールの首都のアビジャンでも洪水被害が増えているほか、最近訪れたセネガルのダカールでも、都市での洪水被害が散見されるようになっていると聞いており、日本の都市で用いられている治水技術が活きる可能性も出てきていると感じる。財を成したElumelu氏が、民間セクターの役割が国の発展に決定的に重要との信念の下に2010年に設立したもので、農業・保健・教育・エネルギーなどを優先分野として定め、それらの分野における起業等を推進している。私は、同財団との懇談会において、各担当者からプレゼンを聞いたが、その内容は、それぞれの分野における課題を正面から捉え、官民の縛りにとらわれずに政策面も含めて必要な取組を列挙し、それと整合的な民間における起業を推進することを基本とするものだった。課題分析のくだりは政府の担当者かと思うほどであり、「自分たちが何とかしてこの国を発展させるんだ」という強い思いを感じた。これを聞きながら、「明治維新後の日本もこんな感じだったかもしれない」と思ってしまった。明治以降の日本の成長の特徴の一つは農業と非農業がともに高成長を遂げたことだが、農業について、老農と言われる人々が、公的な取組に先行して、自主的に効率的な生産方法や高収量品種を実証により特定するなどして生産性の向上に大きく貢献したと言われる。これに限らず、当時の日本は、官民問わず、みなが強い当事者意識を持って近代化に貢献したのだと思う。ちなみに、その後、アフリカ開発銀行のナイジェリア理事*9に聞いたのだが、同財団は、日本の財閥にインスパイアされ、それと同じようなものをナイジェリアに作りたいとの思いから設立されたとのことだった。アフリカについては「本当に成長するのか」「成長しないのではないか」といった懐疑的な議論が根強くあるが、このように「自分たちが何とかする」という気持ちの人が多くいるのを見ると、多くのチャレンジを克服して、いずれはしっかりと成長するだろうと思ってしまうのである。この論点は、私の関心事の一つでもあり、後ほど結語でも触れたい。さて、この民間主導のプロジェクトが多いことの日本企業へのインプリケーションは、価格ではなく、質で勝負できる場合が増えるということである。こうした民間セクターのプロジェクトも、公的セクターのプロジェクトと同じく、一般競争入札を経る場合があるが、民間企業は、シビアに投資のライフサイクルコストを勘案して、技術力などもしっかりと見る印象である。また、相手企業との関係次第では最初から立案企業として参加し、入札を避けることができる場合もある。実際、私が訪問したアフリカ企業において、その企業が手掛ける事業の一つを日本企業が受注したとのことだったので、その理由を聞いたところ、「競争入札にかけ、最終選考に残った数社から直接話を聞くなどして検討した結果、技術的にしっかりしていたために、価格面では最安ではなかったが選ぶことにした」とのことだった。今後、人口増に伴い、都市での集積*10もさらに進むことを考えると、前述の埋立事業*11やタワーマンションの事例だけでなく、都市交通や都市における災害向けインフラなど*12、高い技術力が必要なプロジェクトも増えてくるはずである。従来型のODA事業に加えて、こうしたプロジェクトの情報をしっかりと集めることができれば、日本企業にとって「おいしい」事業を見つけることができるのではないか。二つ目の特徴は、「社会課題がシンプルであり、ストレートなモチベーションに基づく事業ができる」ということである。アフリカにおける課題は、発展段階が低いことの裏返しとして、例えば、教育・保健・エネルギーへのアクセスが低い、道路を含むインフラが足りないなど、シンプルである上に、小さなプロジェクトでも目に見えた効果があがりやすい状況にある。これは、社会課題解決的な起業を志す人にとっては非常に魅力的な状況であり、アフリカは「気持ちのよい 58 ファイナンス 2022 Nov.(2)シンプルな社会課題と起業

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