ファイナンス 2022年11月号 No.684
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ファイナンス 2022 Nov. 55 *3) Worldwide Governance Indicators 2022. http://info.worldbank.org/governance/wgi/*4) Doing Business 2020. https://openknowledge.worldbank.org/bitstream/handle/10986/32436/9781464814402.pdfガバナンスはアジアと違うのか?けであり、所得・人口・経済状況、さらには開発事例・研究等を含めて、「知識」としてはアフリカを知ってはいた。しかしながら、その国がどういう国なのか、どのような人や組織がどう動いているのかといったことにまで、思いを馳せていなかったと思う。私の場合、アジアについては、多くの国に実際に行ったことがあるほか、普通に生活していても報道等で触れる機会があるからか、データや事例に触れた際に自然と主体的に消化し、アジアについてのフィールド感を形成していたと思う。一方、アフリカについては、触れている情報があまりにも少なかったためか、情報を整理して格納する箱がそもそも頭の中になかったと思う。しかも、恥ずかしながら、自分がアフリカについてしっかりと考えていないことにも気づいていなかった。2019年に世界銀行の会議でコートジボワールに行き、現地の説明を聞いた際に、「そうだろうな(データから把握できる状況からすれば、当然の帰結)」と思うことがあまりにも多く、消化していない、つまりは、アフリカについてよく考えてなかったことに気づいた次第である。このことを踏まえれば、アフリカは、やはり私にとっても遠かったのだと言わざるを得ない。また、現状、多くの日本人にとっても遠いのかもしれない。一方、ここでの遠さは、関係性からくる主観的な距離(地理的にいえば、アフリカは、日本人がよく訪れる欧州のすぐ近くであり、ラテンアメリカよりも日本に近い)であり、「とりあえず、アフリカに行ってみる」ことによって、アフリカを近くすることができると思っている。特に、アジア経験・途上国経験がある人であれば、実際に行ってみれば、「アジアとそう変わらない」「普通の途上国だな」と思うはずである。都市にいけば、立派なビルやモールが立ち並ぶ一方、田舎に行けば、農業や漁業が行われており、アジアや他の途上国と同じ経済原理の中で動いている。このため、アジアで培ったフィールド感や経験を活用すれば、比較的早く、フィールド感を形成できると思う。ここでは、アフリカでビジネスをする際のリスクとして指摘されたり、アフリカを特異視する理由として挙げられたりすることのあるガバナンスの問題について触れたい。結論から言えば、アジアとは「多少の」違いしかないというのが私の見方である。ガバナンスとは、政府の行政能力の有効性(Government Effectiveness)、腐敗(Corruption)、政治的な安定性(Political Stability)、公的な場での意見の述べやすさ(Public Voice)、法の支配の程度(Rule of Law)などを総称するものであり、「アフリカはガバナンスが弱く、ビジネスできない」との意見を聞くことがある。たしかに、世界銀行のガバナンス指標*3をみると、アフリカの平均はアジアの平均より悪く、その意味で、この主張は正しい。しかしながら、この主張は、アフリカには50か国を超える国があり、各国ベースでみれば、アフリカにも、日本企業が多く活動するアジアの国と同程度もしくはより良いガバナンスやビジネス環境を備えている国があることを見逃している。なお、これを逆から言えば、日本企業は「一部のアフリカ諸国よりもガバナンスが悪いと評価されるアジアの国で既に活動している」ことを意味しており、日本企業は、既にリスクを取り、それに対応しているということになる。具体の数字をいくつか例示したい。前述のガバナンス指標の最新版のうち、企業活動への影響が大きいと思われる政府の有効性や腐敗の項目を見ると、ケニアやタンザニアといった比較的日本人に馴染みのある国から、ザンビアやブルキナファソなどのあまり馴染みがないであろう国を含めて、半数以上のアフリカ諸国が、日本企業が多く活動しているバングラデシュよりも高い評価を得ている。また、南アフリカ、ボツワナ、ルワンダといった南部アフリカの国は、政府の有効性においてフィリピンを上回り、ベトナムやタイと同じ程度であるし、腐敗については、それらの東南アジアの国よりも大分高い評価を得ている。つまり、東南アジアと同程度もしくは良い評価を得ている国も多々あるのだ。ビジネス環境についても同じように比較的良い評価を得ているアフリカ諸国も多くあるので、世界銀行のDoing Business Indicators*4を見てみよう。これは、建設許可の取りやすさや電気へのアクセスの容易さなど、各国のビジネス環境を包括的に

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