ファイナンス 2022年11月号 No.684
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60530 ファイナンス 2022 Nov. 49(図表14)オンライン配信による新しい収益モデルへ(図表10)オンライン配信のチケット価格(2020年3月〜8月期)(図表11)オンラインならではのライブエンタメの一例(図表15)ライブエンタメの収入増加を生み出す好循環コラム 経済トレンド 101(出所)株式会社クロス・マーケティング「有料オンラインライブに関する調査」(2020年11月19日)、ZAIKO「コロナ禍以降(2020年3月~8月期)におけるオンラインライブ配信に関するマーケット調査結果(ZAIKOユーザー対象)」(2020年9月16日)、DAZZLE・株式会社Meets・株式会社SCRAPの各HPより(出所)株式会社SKIYAKI「音楽ライブ配信についての意識調査レポート」(2020年9月9日)、中本千晶「オンライン配信、そして『オンライン演劇』実際どう?演劇ファンの複雑な胸中」(2020年12月24日)、株式会社IMAGICAGROUP「(令和2年度戦略的芸術文化創造推進事業『文化芸術収益力強化事業』)委託業務成果報告書」(2021年3月31日)・オンライン配信は手軽である一方、「生のライブに行ってみたくなった」「臨場感がなかった」という感想が挙げられている(図表9)。音楽ライブではVR(バーチャル・リアリティ)技術を使用した配信も行われており、VRゴーグルといった専用機器を用いれば、臨場感や没入感を感じることができるが、現状、ライブ映像を鑑賞できるだけにとどまっている。リアルライブと同じ状況で参加することはできないことから、オンライン配信は、まだリアルライブを完全に代替するものにはなれていないと言える。・ただ、オンライン配信のチケット価格は、リアルライブの半額程度に押さえられている(図表10)。これまで関心があったものの、時間や場所、金額の制約を受けていた人々が購入しやすくなったことで、ライブエンタメへの心理的ハードルが下がったと言える。しかし、オンライン配信を行うことでボトルネックは解消できたものの、「関心がない」層にライブエンタメを訴求することまではできていない。・ライブエンタメの市場規模を今後も拡大していくためには、「関心がない」層を取り込み、オンライン配信ひいてはリアルライブへの参加者を増やすことが必要である。オンライン配信の中には、参加者の選択によってリアルタイムでストーリーが変わる演劇や、ラジオ局といった普段見ることのできない場所で上演される演劇等、オンラインならではの視点による作品が誕生している。チケット料金はリアルライブと同程度のものもあるが、斬新なアイディアから、「関心がない」層を呼び込むことに繋がっている(図表11)。(図表9)オンライン配信の感想(複数回答あり、n=201)生のライブに行ってみたくなった生のライブよりも安く手軽に見られたアーティストに好意を持った表情やパフォーマンスが見やすかった熱量が感じられた演出がすごかった生のライブのような臨場感がなかった接続が不安定だったライブ会場と同じように騒げなかった周りに遠慮して音量を上げられなかった特になし・これまでリアルライブに参加してきた層は、コロナにおける行動制限やイベント開催制限といった消極的な理由でオンライン配信を使用しており、リアルライブへの参加意向が強いことから、併用しつつもオンライン配信へ軸足を移す人は少ないと考える(図表12、13)。また、オンライン配信でライブエンタメを初めて経験した層も、次の機会には臨場感を求めて、リアルライブへ参加しようとする可能性もある(図表9)。オンライン配信は、リアルライブへの参加を妨げるものではなく、逆に参加を促すことができるものと考える。・これまで劇場チケット収入が収益源だったライブエンタメ市場は、オンライン配信を実施することで、チケット収入だけでなく、ECでのグッズ販売や、配信時のネット広告によるスポンサー収入、配信収入といった新しい収益モデルに変わりつつある(図表14)。・オンライン配信を拡充させ、ライブエンタメに「関心がない」層を取り込み、リアルライブへの参加者を増やすことができれば、興行回数や興行場所を増やすことが検討されるだろう。結果として、より多くの人が、より多くの場所でライブエンタメを楽しむことができるようになる。オンライン配信を一層充実させることで、ライブエンタメ市場規模を、現状予測されている以上に拡大させることができるのではないだろうか(図表15)。(図表12)音楽リアルライブへの今後の参加意向(n=2,822)(図表13)オンライン配信での観劇に対する消極的な意見(アンケートのフリーコメント欄より抜粋。n=586)・今はコロナ禍の制約があるから仕方なく見ているに過ぎない・自宅では集中できない・スマホでしか見ることができず、小さな画面で見るのは辛い・生の舞台には敵わない・カメラマン目線の観劇は悲しい1.7%12.2%44.9%41.2%(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。コロナ禍でも自己責任としてすぐにでも観に行きたいコロナ禍でも感染防止対策が整っていれば観に行きたいコロナの影響がなくなったら観に行きたいリアルライブ参加にこだわりはなくなった1918151414141312ポジティブな感想ネガティブな感想201015202530(%)劇場収入収入軸劇場チケット収入体験価値収入軸EC収入スポンサー収入配信収入ライブビューイング収入劇場チケット収入24S席A席等会場の場所による単価設定時間及び空間の原始的な価値回収期間が長く労働集約的時間軸5Gや映像テクノロジーで時間と空間の制約はない体験価値での自由な単価設定回収期間が短いコンテンツビジネス化収入ライブビューイング/配信収入~1,000円未満1,000~2,000円未満2,000~3,000円未満3,000~4,000円未満4,000円~イベント(興行者)Labyrinth東京C(DAZZLE)あの夜を覚えてる(劇団ノーミーツ)オンライン・パパラッチ(SCRAP)これからは新たな収益モデル時間軸ライブエンタメ市場規模の拡大興行回数・興行場所の増加2323101620概要YouTubeで動画を公開し、視聴者がリアルタイムにコメント欄で2択の選択肢を選び、多かった側の選択肢に続くストーリーが公開される。ニッポン放送の社屋からラジオ局を舞台にした演劇を上演。普段演劇に馴染みのないラジオリスナーを引き込むことに成功した。参加者が与えられた手がかりの中から真実を探していく観客参加型オンライン演劇。参加者のSNSへの書き込み内容によってエンディングが変わる。Twitterのトレンドでも1位を獲得した。オンライン配信の充実臨場感・一体感の追求リアルライブへの参加者の増加劇場チケット収入等の増加(参考)図表6よりライブエンタメの平均チケット価格:7,480円(2020年)8,076円(2021年)353040(%)オンラインならではのアイディア・参加者の選択により、リアルタイムでストーリー展開が決定する。・オンラインのみで配信されるため、普段見ることのできない実際のラジオ局を舞台にすることができる。・SNSへの書き込み内容によってストーリ展開が決定する。・参加者が自由に手がかりとなる映像を視聴できる。ライブエンタメ市場におけるオンライン配信の有用性ライブエンタメ市場の今後の展望

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