ファイナンス 2022年11月号 No.684
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淡路島のうっそうとした木々の中に忽然と現れる巨大な木造テラス、「禅坊 靖寧」パソナグループ提供(5)小豆島 30 ファイナンス 2022 Nov.昭和の作詞家・阿久悠の自身の淡路島での少年時代をつづった同名小説を篠田正浩監督が映画化した夏目雅子の遺作「瀬戸内少年野球団」の舞台。その淡路島の現在。瀬戸内海沿いには、古くは厳島神社、現代では直島、豊島、大三島、今治、大島など各地に世界的建築家の作品。今年4月には紙の建築で知られるプリツカー建築賞受賞者の坂 茂設計の全長100mの杉材の木造建築の空中回廊の下に18室の客室が連なる「禅坊 靖寧」がオープン。木々の中に忽然と現れる巨大な木造テラス、建築雑誌でも紹介され「日本の絶景宿」の表紙を飾るこの宿、日帰りや1泊2日での空中禅体験ができる。ガラス張りの個室は空中に浮く。この部屋でどういう夢をみるのだろう。淡路島に本社機能を分散したパソナグループの南部靖之代表から「空中座禅道場」を設計してほしいと依頼された坂は、「“空中で座禅を組む”とは、どんな空間を作ったらよいだろう?」と自問し、「周囲はうっそうとした木々に囲まれ、様々な鳥のさえずりが聞こえる素敵な場所であった。普段人は下から木々を見上げているが、建築の中にいる威圧感がなくなり宙に浮かぶように上から木々を見下ろすことができれば、鳥の囀りに囲まれることにより非日常的な場に身を置けるような空間が作れるのではないか」と思ったという。「デッキに座っても周囲の手摺りが視界に入らない工夫をした」というこの建物、「大階段を上り天井高が徐々に低くなり、デッキに座るともはや建物の存在感は消え、木と森と風、そして昼間は様々な鳥の囀りやカエルの鳴き声や、夜は虫の鳴き声に包まれ、味覚以外のすべての四感が自分を支配していることに気付かされる。」と坂は語る。淡路島から明石海峡大橋を渡れば光源氏も滞在した明石である。前回ご紹介した豊島から船で20分の小豆島、淡路島に次いで瀬戸内海で2番目に大きいこの島、再び瀬戸内国際芸術祭の舞台へ。豊島からの船が到着する土生港に金色に光り輝く小豆島名物、オリーブの王冠、土庄港のシンボル的な作品「太陽の贈り物」。金色に光り輝く葉には、島の子ども達が寄せた「海へのメッセージ」が刻まれ、金色に光り輝く円環からは海が眺められる。ファッションデザイナー、コシノジュンコの作品も。今回新作の「対極の美ー無限に続く円ー」瀬戸内国際芸術祭での3つ目のコシノの作品。コシノが1990年にデザインしたドレスをまとった女性をモデルに初めて3Dプリンターで制作。「見ると忘れらんないみたいなことって必要だと思うんですね。」と語るコシノ。宙に浮く等身大の女性、全体6メートル、土台は四角く、女性から広がる線は丸くすることで対極の美を表現したこの作品、これを見るときっと忘れられない。夕日が映える青い海を見下ろす丘の上に高さ3.7m、幅2.4mの巨大な卵。今回の新作、「はじまりの刻」。植物を素材として組み込んだ有生彫刻(時と共に変化し続ける生のある彫刻)を作る三宅之功の作品。草花の種子を植え付けた「卵には草が生えて命を宿す」、「夕陽を浴びて島とともに生きる命の象徴」だというこの作品、ひびの入った卵を見ると確かに何か始まりそう。「古事記」の国生み伝説では10番目に「小豆島(あづきじま)」を生んだとされる小豆島。大阪城の石垣には小豆島の石も使われたと言われ、秀吉によりキリシタン大名小西行長の領地に。イエズス会の宣教師ルイス・フロイスによると行長は「その島の守りを自らの手で一層堅固にするために二つの城を作らせることに決め、同島のすべての家臣たちがキリシタンとなり、教会と大十字架が建てられて、我らの主なるデウスの名がその地で知られるにいたることを望み、…その島へ司祭の派遣を乞うことにし」、小豆島で布教が行われたという。江戸時代は天領。木下惠介監督、高峰秀子主演の映画「二十四の瞳」の舞台として、またそうめんや日本におけるオリーブ発祥の地として知られるが、普通に御家庭にもありそ

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