ファイナンス 2022年11月号 No.684
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4.3 PDが第Ⅱ非価格競争入札を用いる理由図表8は、10年国債における第Ⅱ非価格競争入札の、応札上限額に対する応札率を時系列で整理したものです。この図をご覧いただくと、行使率が0%~100%の間で上下していることが分かります。*42) 同論文のp.16を参照。*43) 権利行使価格とは、オプションにおいてあらかじめ決められた原資産を購入(売却)する価格を指します。原資産(この場合は国債)の価格と権利行使価格が一致する点をアット・ザ・マネーといいますが、第二非価格競争入札では、平均価格でアット・ザ・マネーが決まるとすれば、入札に掛けられた国債の価格が平均価格より上がる(下がる)と、イン・ザ・マネー(アウト・オブ・ザ・マネー)と考えられます。なお、ここではアット・ザ・マネーなどの知識を前提に記載しましたが、オプションの基本概念を知りたい読者は、筆者とJPXで記載した「国債先物オプション入門」(服部・JPX, 2022)を参照してください。*44) なお、留意点が2点あります。(1)ここでは「利回り変化」として、価格競争入札における平均利回りと(14時30分ではなく)15時時点の引け値の差を使用しています。従って、第Ⅱ非価格競争入札の締め切り以降15時までの引け間際の値動きを含んでしまっている分、利回り変化が第Ⅱ非価格競争入札に与える影響を捉えづらくしている可能性があります。また、(2)「行使率」の算出に当たって、第Ⅱ非価格競争入札の上限の割合(2019年12月までは15%、その後は10%)を発行予定額に掛けた額を分母として使用しています。実際の第Ⅱ非価格競争入札の上限額は、過去の個別PDの応札実績や当日の価格競争入札におけるPD以外による落札の有無によってはより小さくなり得るなどの事情があるため、「行使率」は過少に見積もられている可能性があります。*45) 実際、過去10年間における2年―40年までの入札データのパネルデータを用いて固定効果推定を行ったところ、決定係数は0.2-0.3程度でした。もっとも、ここで用いられたデータは売買参考統計値であるため、15時時点での価格であることから、第Ⅱ非価格競争が行使できるタイミングと若干ずれていることなど、一定の制約の下での分析に過ぎず、結果についてはあくまで幅を以って解する必要がある点に注意してください。(出所)財務省図表8 第Ⅱ非価格競争入札における行使率の推移(行使率、%)100908070605040302010020/120/420/720/1021/121/421/721/1022/122/4 20 ファイナンス 2022 Nov.ケースもありえます。前節では、暗黙のうちに、価格競争入札における入札結果の予測能力が平均的であるPDを想定していました。しかし、読者が平均的な参加者より、入札に係る予測の正確性に自信があるのであれば、第Ⅰ非価格競争入札において平均価格で買うよりも、競争入札で平均価格未満かつ最低価格以上の価格での落札を狙う方が良いかもしれません。また、PDの中には、規模があまり大きくないといった理由から、投資家を見つけられないケースや、既に金利リスクを大きくとってしまい、リスク管理上これ以上買えないなどのケースも考えられます。こうした様々な事情が、行使率が常に100%からある程度下方に乖離した水準で上下していることの背景となっている可能性があります。服部・石田・早瀬・堀江(2022)で説明したとおり*42、第Ⅱ非価格競争入札は、競争入札後の結果公表後の後場に実施されるため、価格競争入札における平均価格を権利行使価格*43とし、応札時点(14時から14時30分まで)の市場価格と比較しながら行使するか否かを判断できるオプションという側面を有します。入札後、国債の価格が上昇し、市場価格が平均価格より高い場合、PDはその権利を行使するメリットを有しています(第II非価格競争入札のオプションを行使して、市場で売ることができれば、キャピタル・ゲインを得られます)。逆に、後場、マーケットにおいて、入札対象銘柄の価格が低下していれば、わざわざ平均価格で購入する必要がないため、第II非価格競争入札へ参加して国債を買うインセンティブは乏しいと考えられます。この点をデータで確認します。図表9は2019年度以降の10年国債と20年国債の入札日における後場の利回り変化と第Ⅱ非価格競争入札の行使率をプロットしたものです。これを見ると、行使率と利回り変化にある程度の関係があることが窺えます*44。もっとも、第Ⅱ非価格競争入札の行使率について、前述のオプション性のみで説明できるわけではない点に注意する必要があります*45。このようなオプション的な性質が妥当するのは、投資家の売買が市場価格に大きな影響を与えないなどの条件が満たされる場合でしょう。例えば、読者がPDであり、ある入札について5,000億円の落札をしたとします。その場合、第Ⅱ非価格競争入札では、最大500億円購入できるわけですが、平均価格でそれほど在庫を抱えたくないということも起こりえますし、その金額を購入してセカンダリー市場で売却した場合、市場の流動性が低ければ、その売却が市場価格を変動させる可能性もあります。例えば、ビッド・アスクが開いており、大きめの取引を行える相手が見つからないなどの事情があれば、上記のオプションとしての説明が妥当しないことも考え

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