ファイナンス 2022年11月号 No.684
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2北米における非価格競争入札の制度2.1 米国 ファイナンス 2022 Nov. 11*8) 現在の米国の競争入札はダッチ方式となっています。*9) 非競争入札の上限は、過去における入札の規模の拡大およびインフレを勘案して、2022年から500万ドルから1,000万ドルへ引き上げられています。*10) 詳細は下記のサイト等をご参照ください。 https://www.federalregister.gov/documents/2004/09/02/04-19999/sale-and-issue-of-marketable-treasury-bills-notes-and-bonds-six-decimal-pricing-negative-yield https://www.treasurydirect.gov/indiv/research/indepth/auctions/res_auctions_faq.htm https://www.treasurydirect.gov/instit/research/gloss/gloss.htm*11) ここでは2〜30年国債を想定した書きぶりになっています。40年国債入札については第Ⅰ非価格競争入札を実施していません。詳細は服部・石田・早瀬・堀江(2022)を参照してください。*12) 米国の国債発行計画については、例えば下記など米国財務省のウェブサイト等を参照してください。 https://home.treasury.gov/policy-issues/■nancing-the-governmentまず、北米を見てみると、PD以外も参加できる日本の非競争入札に類似した制度が見られます。例えば米国には、日本の非競争入札と類似の制度があります(noncompetitive bid、以下、米国のこの制度も非競争入札と呼ぶこととします)。米国における非競争入札は、米国が競争入札(コンベンショナル方式*8)を1929年に開始して暫く経った1947年に導入された歴史のある仕組みです(Malvey et al., 1995)。現在では、TreasuryDirectという個人や競争入札に参加しない中小投資家向けのシステムを通じて、競争入札に参加する機関投資家に比べると比較的少額(上限1,000万ドル)の投資を受け付けています*9。PDに限らず、入札参加者は価格競争入札又は非競争入札のいずれか一方に限り応募することができ、非競争入札の落札利回りは、ダッチ方式に基づく価格競争入札の落札利回りとなっています*10。米国債のオークションにおいて特に重要なのは、現在ではダッチ方式が採用されている点です。前述のとおり、ダッチ方式では、競争入札において、すべての投資家が同一の価格・利回りで落札することになります。米国では、日本でいうダッチ方式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶ一方、コンベンショナル方式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)と呼んでいます。詳細は、石田・服部(2020)を参照していただきたいのですが、ソロモン・ブラザーズの不正等をきっかけに、それまではdiscriminatory price auctionが用いられていたところ、1992年9月から2年国債と5年国債の発行についてuniform price auctionが導入され、1998年11月からは全てのオークションについてuniform price auctionが採られています。ダッチ方式ではすべての人が同一の価格・利回りで購入しますから、同制度を利用している米国債入札においては、アベレージで購入したいというニーズは競争入札を通じて満たすことができる可能性があります。他方で、前述のとおり、非競争入札は、競争入札に普段参加していないために適切な応札価格を判断することが困難な中小投資家等に対しても、平均的な価格で国債を購入する機会を与えているとも考えられます。これは、我が国で、非競争入札が小規模の投資家向けに実施されているのに類似しているとみることもできます。図表1が米国債のオークションの結果の一例です。図表1において、noncompetitiveと記載されている部分に非競争入札の結果が示されています。Tenderが応札額であり、Acceptedが落札額に相当します。なお、米国では、非競争入札においてFIMA(Foreign and International Monetary Authorities)も参加できる点が特徴であり、FIMAの落札額についても公表されています。我が国では、非価格競争入札による発行は、(第Ⅰ・第Ⅱ非価格競争入札合わせて)入札の発行額の30%*11になりますが、米国の場合、上記のとおり、非競争入札が比較的小規模の投資家を対象にしていることなどから、発行総額に比して規模が少額である点も重要な特徴です。なお、米国における国債発行計画では、債務上限の範囲内で、政府の借入需要見込みや四半期末キャッシュバランス、国債償還額などを踏まえ、2・5・8・11月に向こう3か月分の国債発行計画を公表しています*12。米国債は、市場性国債(割引国債、利付国債、物価連動国債)及び非市場性国債(個人向け貯蓄国債、政府部門向け非市場性国債)に分けられるところ、非市場性国債の対象は主に政府(年金基金)であることなども特徴と言えましょう。また、非競争入札が実施されるのは、競争入札の対象となる市場性国債であり、非市場性国債では実施されません。2022年9月末時点で、米国債の発行残高30.9兆ドルのうち、市場性国債は23.7兆ドルを占め

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