ファイナンス 2022年11月号 No.684
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 服部 孝洋*2、石田 良*3、早瀬 直人、堀江 葵*41はじめに「非価格競争入札入門―基礎編―」(服部・石田・早瀬・堀江 2022)では、日本における非価格競争入札について概説しました。本稿では、他の先進国における非価格競争入札に類似した制度を紹介します。我が国が国債市場特別参加者(いわゆるプライマリー・ディーラー(Primary Dealer, PD))制度導入の議論を開始した際には、既に多くの主要国において、類似した制度が存在していたことが、国債市場懇談会資料(2003年6月27日参照)で紹介されています。したがって、このような制度は、多くの国で、比較的歴史のある制度と言えましょう。更に、OECD(2020)によると、現在、OECD加盟国のうち3分の2程度の国には、第Ⅱ非価格競争入札に類似した制度が導入されていることが示唆されています。*1) 本稿の意見に係る部分は筆者らの個人的見解であり、筆者らの所属する組織の見解を表すものではありません。本稿を作成するにあたり、著者の1人である服部のリサーチ・アシスタントとして安斎由里菜氏、岩田侑馬氏、曹徳宇氏のサポートを受けました。本稿の記述における誤りは全て筆者らによるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。*2) 東京大学公共政策大学院特任講師*3) 財務省財務総合政策研究所客員研究員*4) コロンビア大学国際公共政策大学院*5) 価格競争入札と同時に応募が行われ、価格競争入札における加重平均価格を発行価格とする入札(入札者は、価格競争入札又は非競争入札のいずれか*6) 厳密にいえば、ここでは金利競争入札も含みますが、金利と価格は一対一の関係を有するため、本稿で煩雑さを避ける観点で価格競争入札と記載して*7) https://sites.google.com/site/hattori0819/一方に限り応募することができます)。います。 10 ファイナンス 2022 Nov.我が国の非価格競争入札は、第Ⅰ非価格競争入札と第Ⅱ非価格競争入札に大別されます(その他、2年・5年・10年利付国債については、小規模の投資家を対象とした非競争入札*5が行われています)。第Ⅰ非価格競争入札とは、価格競争入札と同時に応募が行われ、発行予定額のうち一定割合を発行限度額とし、価格競争入札における平均価格を発行価格とするものです。一方、第Ⅱ非価格競争入札とは、価格競争入札*6が終わった後に、当該入札の平均価格で購入する入札です。諸外国でも、こうした非価格競争入札や非競争入札に類似した制度が見られます。しかしながら、長い歴史があり、幅広い国で似たような制度が導入されているにも関わらず、諸外国の非価格競争入札・非競争入札に類似した制度について整理した文献は、筆者の知る限り僅少です。そこで、本稿では、非価格競争入札に類似する海外の制度についての説明を行います。まずは、北米の入札制度に焦点を当て、例えば米国の競争入札では、落札者全員が同じ価格・利回りで購入するというダッチ方式が用いられていること等を紹介しつつ、我が国の非価格競争入札に類似する制度は存在しないことを説明します。続いて、欧州に目を向け、欧州主要国(英、仏、独、伊)では、競争入札の大宗で、落札者が自ら応札した価格・利回りで購入するコンベンショナル方式が用いられていること等に言及しつつ、我が国の非価格競争入札に類似した制度が広く導入されていることを紹介します。その上で、欧州主要国において、非価格競争入札類似制度による落札額は、全落札額の概ね20-30%程度であり、この水準は、我が国と大きくは乖離していないことを確認します。本稿では、このように、諸外国の非価格競争入札に類似した制度を整理し、概説することとします。また、我が国の非価格競争入札について、追加的な内容を取り上げます。なお、本稿では、日本国債の入札制度の理解を前提としていますので、制度の詳細等を知りたい場合は、石田・服部(2020)及び服部・石田・早瀬・堀江(2022)を参照してください。国債や債券全般に関する情報については、筆者のうち服部のウェブサイト*7にも掲載しているため、そちらも参照いただければ幸いです。非価格競争入札入門―海外編―*1

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