ファイナンス 2022年10月号 No.683
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参考文献1. Ohno, T., T. Kodama and R. Matsumoto(2018), “Decomposition Approach on Changes in Redistributive Effects of Taxes and Social Insurance Premiums”, Public Policy Review, 14(4), p.777-802 Ohno, T., M. Nakazawa, K. Kikuta and M. Yamamoto(2015), “Comparison of Taxes and Social Insurance Premium Burdens in Household Accounts”, Public Policy Review, 11(4), p.547-571 Ohno, T., J. Sakamaki, D. Kojima and T. Imahori(2021), “Effects of deductions on the tax burden reduction and the redistribution of the income and resident taxes”, Japan and the World Economy, 60, 101104, Erratum(2022), 61, 101113 大野太郎・今堀友嗣・小嶋大造(2022)「所得税・住民税における収入逓増的控除の負担軽減効果と再分配効果」, PRI Discussion Paper Series, No.22A-03 金田陸幸(2014)「所得課税における控除の実態:マイクロシミュレーションによる分析」『租税資料館賞受賞論文集』第22回中巻, p.181-223 税制調査会(2016)「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告」(平成28年11月14日)内閣府ホームページ 多田隼士・大野太郎・宇南山卓(2016)「マイクロ・データを用いた社会保険料の推計とその妥当性の検証」, PRI Discussion Paper Series, No.16A-02 田近栄治・八塩裕之(2006a)「日本の所得税・住民税負担の実態とその改革について」,貝塚啓明・財務省財務総合政策研究所(編)『経済格差の研究:日本の分配構造を読み解く』, 中央経済社, 第7章 田近栄治・八塩裕之(2006b)「税制を通じた所得再分配:所得控除にかわる税額控除の活用」, 小塩隆士・田近栄治・府川哲夫(編)『日本の所得分配:格差拡大と政策の役割』,東京大学出版会, 第4章2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 藤井大輔・木原大策(2022)『令和2-3年度版図説日本の税制』, 財経詳報社11. 増井良啓(2014)『租税法入門』, 有斐閣表4 再分配効果の変化(制度変更の寄与)(注) 総務省統計局『全国家計構造調査』(旧『全国消費実態調査』)の個票データよ30年間の比較り筆者作成1989→20191989→20191989→20195年おきの比較1989→19941994→19991999→20042004→20092009→20142014→2019ジニ係数の変化分税・保険料0.0070.009-0.003税のみ保険料のみ税・保険料税・保険料税・保険料税・保険料税・保険料税・保険料0.0060.0020.001-0.002-0.0010.000 66 ファイナンス 2022 Oct.6.おわりに本稿では『全国家計構造調査』の個票データを使用し、家計の税・保険料負担および再分配効果に関する平成30年間の動向について見てきた。税・保険料全体では累進的な負担構造を持ち、また経年的に捉えると、おおむねどの所得階層でも負担率が上昇している。ただし、その内訳を見てみると、所得税の負担構造は累進性を低める一方、保険料で累進性を高めていることが確認された。こうした変化は再分配効果についても現れており、経年的に見て、税・保険料の再分配効果(ジニ係数の変化分や変化率)はわずかに上昇しているが、このうち税の再分配効果は低下し、保険料の再分配効果は上昇している。また、こうした再分配効果の時点間比較には制度変更による影響のみならず、所得分布や人口構成などの変化による影響も含まれる。そこで制度変更の真の寄与に注目すると、この30年間の比較では制度変更によって税・保険料の再分配効果が低下しており、この結果は主に税制面においてもたらされたことが確認された。日本ではこの30年間でジニ係数が0.269→0.296と、0.027p上昇している。こうした背景には高齢化の進展に伴い、高齢層・現役層間といった年齢間におけるジニ係数の違いが強く反映されているところもある。他方、現役世帯のみで捉えたジニ係数も上昇傾向にある中、所得税における再分配機能の回復は一つの政策課題と言える。このとき、所得税の累進性は税率構造のみならず所得控除の影響も受けるため(増井2014, p.76)、再分配効果の回復に向けては控除のあり方に関する議論も期待したい。こうした議論はこれまでも無かったわけではない。政府税制調査会が、「所得控除方式は高所得者ほど税負担の軽減額が大きいことを踏まえ、所得再分配機能を回復する観点から、そのあり方について見直しを行う必要がある」(税制調査会2016, p.6)と指摘するように、控除による負担軽減効果やそれに伴う再分配効果への影響について政策的な議論が展開されてきたし、またそれと関連したエビデンスが学術的な成果からも提示されつつある(田近・八塩2006a, b; 金田2014; Ohno et al.2021; 大野ほか2022)。近年、Evidence-Based Policy Making(証拠に基づく政策立案;EBPM)の推進が求められる中、政策立案と学術研究が互いの助けとなる相互協力の関係を高めていくことも重要である。さらに、最近では税務大学校との共同研究における国税庁保有行政記録情報利用、いわゆる税務データを利用した研究の機会についても門戸が開かれたところであるが、こうした取り組みから税制に関する新たなエビデンスが提示され、EBPMの推進に一層寄与することも期待される。

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