ファイナンス 2022年10月号 No.683
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ファイナンス 2022 Oct. 63表2 所得水準と所得格差 (注)総務省統計局『全国家計構造調査』(旧『全国消費実態調査』)の個票データより筆者作成所得(単位:万円)当初所得             (1)総所得              (2)可処分所得            (3)ジニ係数当初所得             (4)総所得              (5)可処分所得            (6)ジニ係数の変化分給付の寄与         (7)=(5)-(4)税・保険料の寄与      (8)=(6)-(5)(参考)ジニ係数:年齢階層別可処分所得(65歳未満)      (9)可処分所得(65歳以上)     (10)1989297.1334.6281.50.3310.2990.269-0.032-0.0300.2570.33619941999349.0402.3340.8336.6397.8338.40.3420.3080.2790.3520.3060.280-0.034-0.029-0.046-0.0260.2630.3380.2670.311200420092014309.1377.1317.8287.8361.0298.0273.2350.5286.10.3770.3130.2860.4060.3250.2940.4120.3240.291-0.064-0.027-0.081-0.031-0.088-0.0330.2730.3040.2850.2920.2780.2921989 →20192019304.2373.4299.17.138.817.60.3930.3300.2960.0620.0310.027-0.063-0.034-0.031-0.0040.2810.3020.024-0.034PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 12はじめに、所得水準と所得格差の推移について見ていく。所得の概念には、(1)当初に稼得する「当初所得」、(2)当初所得に社会保障給付(現金給付)を加えた「総所得」、(3)総所得から税・保険料を除いた「可処分所得」があり、これら3つの所得概念を使用する。所得格差の指標にはジニ係数を使用し、3つの所得概念ごとにジニ係数を計算することが可能である。ジニ係数は0から1までの値をとり、この値が大きいほど格差が大きいことを表す。本稿で3つの所得概念を使用するのは、これらを利用することで給付・負担を通じた所得格差の是正度合いを捉えることができるためである。なお、世帯の規模を調整するため、所得や税・保険料などの各水準は等価世帯ベース(各水準を世帯人数の平方根で除したもの)を使用する。表2は各調査年における所得水準(全世帯平均、名目値)とジニ係数の大きさを示している。所得水準についてはいずれの所得概念も同様の傾向を持つが、1990年代前半(1989→1994)に増加し、その後(1994年以降)は減少傾向が続くが、2010年代後半(2014→2019)は再び増加に転じた。ジニ係数についてもいずれの所得概念で同様の傾向を持つが、1990年代(1989年以降)から今日にかけておおむね上昇傾向が続いている。また、年齢別に捉えると、特に現役世帯(世帯主年齢65歳未満の世帯)のジニ係数がおおむね上昇傾向にある。次に、再分配効果の大きさについても確認したい。再分配効果とは、税制・社会保障制度による負担・給付を通じた所得格差の是正度合いに着目するものである。ここでは当初所得から総所得にかけてジニ係数がどの程度低下したかで、それを給付の寄与とみなす。また、総所得から可処分所得にかけてジニ係数がどの程度低下したかで、それを税・保険料の寄与とみなす。表2では各調査年における再分配効果の大きさも示している。例えば、1989年において当初所得で見たジニ係数は0.331であるが、給付によって0.032p(ポイント)低下し、さらに税・保険料によって0.030p低下し、結果として可処分所得で見たジニ係数は0.269である。したがって、1989年時点で給付と税・保険料の再配分への寄与は同程度であったことが分かる。これに対して、2019年において、ジニ係数は給付によって0.063p低下し、税・保険料によって0.034p低下する。給付の寄与自体はこの30年間で拡大し続けており、2019年時点の再分配効果は給付の寄与が税・保険料の寄与を上回る。こうした背景には現金給付の多くが公的年金給付であり、高齢化の進展によって給付の寄与が継続的に高まってきたことが挙げられる。他方、税・保険料の寄与について経年的な変化は小さいものに留まるが、現役世帯における世代内のジニ係数が高まる中で、税を通じた再分配効果の重要性は高まっている。次に、税・保険料負担の構造について見ていく。図1は現役世帯(世帯主年齢65歳未満の世帯)を、図2は高齢世帯(世帯主年齢65歳以上の世帯)を対象に、4.家計の税・保険料負担4.1 所得水準と所得格差の動向4.2 家計の税・保険料負担の構造

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