ファイナンス 2022年10月号 No.683
58/82

543210…チリアイルランド英国アメリカ…(図表7)人的資本投資のある場合の価値限界(図表1)先端技術の活用目的(図表2)DXの取組状況生産力と賃金(ベッカーの図式)価値限界生産力(VMP)賃金(W)(図表3)DXを進める際の課題(図表4)就業者に占めるIT人材の割合(図表8)スキルアップの取組内容(図表9)再教育に対する認識(図表5)DX人材の不足感(図表10)人材投資(OJT以外)の国際比較(GDP比)(%)2005-20123サービス業・その他商業・流通業エネルギー・インフラ情報通信業製造業(%)0(出典)清家篤・風神佐知子「労働経済」東洋経済新報社、内閣府「令和4年度年次経済財政報告」、経済産業省「IT人材に関する各国比較調査結果報告書」「持続的な企業価値価値限界生産力(VMP):労働者の生産能力賃金(W):労働者の賃金M:定年退職のタイミング  t1:教育訓練を受け終わるタイミングVMP0=W0:教育訓練前のVMPかつ、それに見合ったWVMP1:教育訓練中のVMP     W1:教育訓練中のWVMP2:教育訓練を受けた後のVMP W2:教育訓練を受けた後のW・近年、業務効率化を目的としたICT投資が進められる一方で、ビジネスモデルの変革を伴い、付加価値を高めるようなデジタル化(デジタルトランスフォーメーション:DX)は広がっていない(図表1)。情報通信業では多少進捗がみられるが、それ以外の業種では8割以上の企業がDXに取り組めていない(図表2)。・DX化が進まない理由として、日本では特に「人材不足」が突出している(図表3)。諸外国に比べIT人材の割合は低く、米国対比ではDX人材の量と質に対する不足感が非常に高い(図表4、5)。・多くの企業は、不足している人材の確保・育成に向けて、「社内・社外研修の充実」、「デジタル人材の中途採用」といった取組みで対応しようとしているが、諸外国に比べ「デジタル人材の新規採用」への取組みは進んでいない(図表6)。・企業にとって、研修費用や研修期間中の従業員の賃金負担などは先行投資となる。その後、人的資本投資をした従業員が以前より高い生産能力を発揮し、費用(研修費や昇給額等)を上回る売上高が創出されれば、収益が得られる。従業員にとっても、研修を通じて自身の人的資本を蓄積し、売上高への貢献により昇給へと繋がる。このように、DXのための教育訓練に取り組むことは、企業と従業員いずれにとってもメリットがある(図表7)。・しかし、自主的な情報収集を行う従業員は多くみられる一方、企業側から提供される学び直しの機会を利用する割合は低い(図表8)。背景には、企業の研修等再教育制度の効果を実感している者の割合が諸外国比で低いことから、教育訓練の内容がニーズと合致していない可能性が示唆される(図表9)。また、リスキルにより昇給が見込めないことも一因として考えられる。・また、企業側は、人的資本投資をしたとしてもスキルアップした従業員が転職してしまう恐れから、積極的な投資に踏み切れないというジレンマに直面しており、諸外国比で人材投資額は低い(図表10)。結果として、従業員へ効果的な研修等、十分な成長機会を提供できていないと考えられる。今後も持続的な雇用と成長を果たすには、企業は人的資本の蓄積不足の解消に努め、企業全体が付加価値の創出及び向上へと取り組んでいかなければならない。VMP2W2VMP0=W0W1VMP1企業の投資収益個人の投資収益個人の投資費用企業の投資費用の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」、OECD「国際成人力調査(PIAAC)」、宮川努「生産性とは何か」筑摩書房業務効率の向上コスト(人件費、保守費用等)の削減既存製(商)品・サービスへの付加価値の付与既存事業の規模拡大人手不足の解消新製(商)品・サービスの開発その他新事業への進出0(%)2050t1n=7634060802018年度以前より実施2019年度から実施2020年度から実施今後実施を検討今後も実施予定なしスウェーデンデンマーク英国(%)100※IT関連の仕事に就いている者を対象としたアンケート調査結果。調査対象国は、アメリカ、日本、韓国、中国、インド、ベトナム、タイ、インドネシアの8か国。回答者数は各国500名(ベトナムのみ300名)。調査期間は2016年3月上旬~中旬。0M210100806040200(%)デンマークニュージー自主的な取組書類・雑誌による情報収集WEB上での情報収集企業提供機会を利用した取組社内の研修・勉強会への参加WEB講座による学習(e-learning/MOOC等)ランド人材不足業務の改革に対する社員等の抵抗規制・制度による障壁ICTなど技術的な知識不足検討する時間がない情報流出懸念(セキュリティ不安)その他0(%)2040米国ドイツフランスイタリア日本順位(8か国中)取組の実施割合1位3位66.2%70.8%7位8位22.2%12.8%10080604020030.820.322.86.8日本米国ドイツ45.243.615.6日本1.710.6米国60(%)DXを担う人材の「量」の確保(図表6)DX人材確保に向けた取組社内・社外研修の充実資格取得の推奨・補助デジタル人材の新規採用デジタル人材の中途採用社内の配置転換関連会社からの異動・移籍その他特に何も行っていない0(%)米国フランスドイツ英国イタリア日本エストニア韓国日本2.730.523.625.7やや過剰である過不足はないやや不足している大幅に不足している分からない7.33.547.447.214.8日本米国DXを担う人材の「質」の確保日本米国ドイツ60(出典)総務省「令和3年版情報通信白書」「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究」「就業構造基本調査」、ILO統計、内閣府「令和4年度年次経済財政報告」「日本経済2021-2022」、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX白書2021」、財務省「財務局調査による「先端技術(IoT、AI等)の活用状況」について」4020※33か国25万人の成人男女(16歳~65歳)を対象に実施されたアンケート調査結果。調査期間は2011年8月~2012年3月(ただし、9か国は2014年4月~2015年3月に実施)。通信教育、実践研修、上司または同僚による研修、その他セミナー等を利用したことがある者を対象に「その学習は、当時または現在のあなたの仕事やビジネスにどう役立ちましたか」と訊いた結果。)1995-2004 54 ファイナンス 2022 Oct.大臣官房総合政策課 調査員 岡 昂一郎/木下 裕也本稿では、DXの現状と課題を分析し、人的資本の観点からDX推進の方策について考察を行う。DXにおける現状把握コラム 経済トレンド100人的資本からみたDX推進における課題分析人的資本理論からみたDXの現状と課題

元のページ  ../index.html#58

このブックを見る