ファイナンス 2022年10月号 No.683
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60 ファイナンス 2022 Oct. 53(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。*1) Kenneth S. Rogoff and Yuanchen Yang(2020)“Peak China Housing.” NBER Working Papers 27697.コラム 海外経済の潮流 141(注)2022年以降は予測値。(出所)国連“World Population Prospects 2022”3.02.01.00.0201025-34歳人口人口に占める25-34歳の割合(右軸)15202530(%)24181240455035打ち出している。2022年3月の全人代政府活動報告においては、「住宅は住むためのものであり投機の対象ではない」との方針を維持する一方で、「住宅購入者の合理的な需要をより満たすよう支援する」として、実需に基づく不動産の購入は妨げない姿勢を示した。また、4月の中央政治局会議では、不動産の安定した健全な発展を促進するとし、地方政府による不動産政策の自主性を強化することを示唆した。多くの地方政府において、住宅ローンの頭金比率の引下げや補助金、購入条件の緩和などが導入されている。中国人民銀行においては、住宅ローンの参照金利とされる5年物LPR(Loan Prime Rate)を、2022年5月に4.60%から4.45%に引き下げ(▲0.15%pt)、8月にも4.30%への引き下げ(▲0.15%pt)を発表した。住宅販売の低迷に対するテコ入れとみられる。また、中国人民銀行は5月に、一件目の住宅購入におけるローン金利の下限を、LPRからさらに▲0.2%引き下げることを発表している。さらに不動産企業の財務状況の悪化に伴う建設工事停滞によって住宅が購入者に引き渡されない問題に対して、一部の地域においては、不動産企業への土地使用権売却の際に住宅の竣工後に販売することを条件にしたり、不動産企業支援のための基金を設立したりするなどの動きがある。また、中国人民銀行の指導の下で政策銀行が融資支援を行う方針も打ち出されている。これまで不動産価格は上がるものという前提で無理6.中国当局の住宅市場支援の動き住宅市場が低迷する中で、中国当局は様々な政策を7.おわりにハーバード大学教授Kenneth S. Rogoffらの試算*1によれば、中国のGDPに占める不動産業の割合は関連産業を含めると29%あり、不動産業の経済活動が20%落ち込むと、GDPは5~10%減少する可能性があるとしている。中国における不動産部門は経済成長の要である。をしてでも購入していた人にとっては、住宅市場の低迷によって買い控えのインセンティブが働き、不動産価格の低下に拍車をかける可能性がある。また、中国では2015年に廃止された「一人っ子政策」などの影響による若年齢層の減少も進んでおり、最初に家を買う人が多いとされる25歳~34歳の人口が減少局面に入っており、不動産市場の低迷は構造的な問題となっているとの指摘もある。【図表5】中国の25歳〜34歳の人口の推移(億人)4.0中国当局は、「共同富裕」の方針の下に、社会格差を拡大させるような住宅市場の過熱は望んでいないとみられるものの、低迷する不動産市場を支えていかなければならず、今後も難しい舵取りを迫られるだろう。

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