ファイナンス 2022年10月号 No.683
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ファイナンス 2022 Oct. 45豊島美術館 広さ約40×60m、最高高さ4.3mの空間に柱が1本もなく、天井にある2箇所の開口部から、周囲の風、音、光が直接取り込まれ、一日を通して「泉」が誕生。入った瞬間、「!!!」という空間。写真:鈴木研一Teshima Art Museum:ベネッセアートサイト直島(benesse-artsite.jp)瀬戸内海今昔 うな形の、自由曲線による建築」を提案。最高高4.5m、躯体の厚さは25cm。そして、採光のための開口部が2か所、天井床平面の大きさは40m×60m。構造を支えるための柱は空間の中に1本もないコンクリ―トの薄いシェルにより内部に大きく有機的なワンルームの空間。「開かれた開口を通して、光や雨、美しい自然の気配が取り込まれ、もしくは蝶や鳥が通り過ぎ」る半分屋内のような屋外のような空間。継ぎ目なく滑らかに打つために,晴れた冬の日にひと息に打設。「土で形をつくり、モルタルで固め、…ひたすらミキサー車120台分のコンクリートを打ち続け、そののち5週間の時間をおいて、6週間かけて中の土を掘り出した」という。施工した鹿島建設のWebsiteによると「この様子をひと目見ようと島中からギャラリーが集ま」る中、「朝9時からはじまった作業は,2台のポンプ車を使って…落ち葉に気を配りながら,左官職人の手が肌理を仕上げていく。夜を徹しての作業となったが,ギャラリーは絶えなかった。すべての作業が完了すると,現場からは自然と拍手が湧いたという。打設開始から26時間が経過した12日の朝11時のことである」。西沢立衛も豊島美術館で日本建築学会賞(作品賞、2012年)を受賞。そのアート。1993年のヴェネツィア・トリエンナーレの日本館で一度に一人の鑑賞者しか入れない作品空間で長蛇の列を作った内藤礼。西沢のアートスペースの模型と図面をベースに、「その場所でしか体験することができない」、しかし豊島では「一度に何人もが体験することが可能な」作品を依頼され、開口部をガラスやアクリルで塞がず、建築物はコンクリートのみを用いて作り、他の材料は使わない、という西沢の希望にも沿って、泉が生まれる風景をつくり出す「母型」で応える。床には多数の小さな孔が穿たれ,どういう仕組みなのか、水が不規則に湧き出て、「1日かけて『泉』をつくり出す」。「現代美術の極北と言っていいかもしれない。」という独特の世界。今回の瀬戸内国際芸術祭2022の新作、古民家1棟を使った「かげたちのみる夢(Remains of Shadowings)」。アーティスト、冨安由真は「小泉八雲の短編小説『和解』を題材にしたもので、最初にこの家を見た時に思い浮かんだ。『和解』は、主人公の男が別れた妻の家を訪れ、妻と再会する夢から目覚めるようなシーンが描かれる。作品では、…物語のように徐々に夢の世界へ入り込んでいく感覚を味わってもらう」、「現実と非現実の境目がわからなくなる」体験ができる没入型インスタレーションだという。豊島には宇野港から直接フェリーも出ていて、瀬戸内国際芸術祭期間中は増便される。何十年もBASN(ベネッセアートサイト直島)の活動ができるのも、「経済は文化の僕」だという福武の提唱する「公益資本主義」の考えに基づき、福武財団がベネッセの大株主(直近の有価証券報告書で8.04%)となり、配当を資金としているからだという。豊島美術館ができた2010年に第一回瀬戸内国際芸術祭。福武は「BASNの活動では、アーティストを指名して、その場にしかない作品を長い時間をかけて作り、そのなかで『よく生きる』ということを重層的に考えてきました。これを『直島メソッド』呼んでいます。これとは違う形で、備讃瀬戸という広域でアートによって地域を変えることを目指したのが、瀬戸内国際芸術祭です。」と語る。開催のいきさつについて総合ディレクターの北川フラムによると、2000年から雪深い新潟で開催されている『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』で2006年の第三回芸術祭の総合プロデューサー(4)瀬戸内国際芸術祭

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