ファイナンス 2022年10月号 No.683
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「杉本博司ギャラリー 時の回廊」の「硝子の茶室『聞鳥庵』」Hiroshi Sugimoto, Glass Tea House “Mondrian”, 2014(c)Hiroshi Sugimoto, Photo:Sugimoto Studio The work originally created for LE STANZE DEL VETRO, Venice by Pentagram Stiftung:ベネッセアートサイト直島(benesse-artsite.jp) 42 ファイナンス 2022 Oct.フィシエ叙勲の杉本博司ギャラリー 時の回廊がオープン。直島の家プロジェクト「護王神社」で、神社を改築し、地下の石室を透明な階段で本殿と結んだ杉本は、「時の回廊」では、池の上の長い透明な通路の先に〈硝子の茶室《聞鳥庵(もんどりあん)》〉を設ける。2014年ヴェネツィア建築ビエンナーレに出品され、ヴェルサイユ宮殿の現代美術プロジェクトではヴェルサイユ宮殿の池に、2020年には京都の京セラ美術館のリニューアルオープンで美術館の庭の池に設置された透明な茶室。ヴェルサイユ宮殿に設置した茶室で杉本と話をした福武から、「あの茶室はどうするんだ?」と聞かれ、「カタールを始め世界中から引き合いがあったのですが、メンテナンスが大変なので美術館のように管理できる場所が望ましいということで、最終的に直島が終の棲家となりました」と杉本は語る。ベネッセハウスの宿泊者は予約なしで鑑賞できる。地中美術館「自然とアート、建築の共生」という考えをさらに推し進めたのが、2004年に開館した地中美術館。建物が地中に埋まっている。鑑賞者は建築の形が分からないまま、迷宮のような地下空間をめぐる。すべて対岸の岡山県からフェリーで運ばれてきたという打ちっぱなしのコンクリート。施工した鹿島建設のWebsiteによると建築の「最大の見どころは,三角コートと呼ばれる中庭の大壁面」、「庭を囲む高さ12.8mの巨大な三面壁には,安藤建築の真骨頂である美しい肌理を見ることができる」という。建物のほとんどを地中に埋め、さらに各ギャラリーは自然光のみで採光するという建築界の常識を破る建物。福武によると「クロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルという三人のアーティストの作品とゆっくり向き合い、自ら「よく生きる」を考える。そのようなスピリチュアルな空間」だという。福武が1993年にボストン美術館でのモネの回顧展に2作品を貸し出し、同時に展示されていた大きなモネの作品の前に立った時、そばに置いてくれと「その絵が私を呼んだ」と言い、これを購入。この「モネの《睡蓮》を、宗教的なものを超える概念の曼荼羅のような象徴にしたい。大きいモネをご本尊さまに見立て、曼荼羅にしようとすると両サイドに脇侍が必要でーキリスト教の祭壇画だとペテロ&パウロのような使徒…ー、それなら、ウォルター・デ・マリアとジェームズ・タレルに作品を作ってもらい、置いてはどうか、と」福武は安藤に話したという。そのウォルター・デ・マリア。ランド・アート(屋外で土や砂などの自然の物質を用い、土木工事に匹敵する大規模な制作プロセスを経た美術作品)の代表的作品、《ライトニング・フィールド》、ニューメキシコの砂漠に直径2インチ、高さ平均20フィート7.5インチのステンレス・スティール製のポール400本が東西1マイル、南北1キロメートルの範囲に格子状に立ち並ぶ。ニューヨークの《ブロークン・キロメーター》、「長さ1キロ」(「重さ1㎏」ではなく、「長さ1km!」重さは18.5t)、直径5センチの真鍮の棒を二メートルごとに切って、床の上に百本ずつ、五列に整然と並べる。地中美術館では、地中にある巨大な空間、階段の途中に直径2.2メートルの球体。この作品は天窓からの光により表情を変える。光と空間を用い、知覚に訴える作品を発表するジェームズ・タレル。イタリアミラノ近郊の貴族の屋敷には、スイッチを押すと半円形の鉄板が開き、空が見え、夜はその星空の下でワインを飲んだり、或いは部屋の天井が四角に開き、まるで額縁の中に青一色の絵が入っているように空が見えるスカイルームという作品があるという。「空の印象を強めるために,開口部のエッジが画用紙を切り抜いたように極限まで薄く仕上げられている」地中美術館の大理石張りのスカイルームからも直島の青い空が見える。階段を上って額縁の中の青い光の中に入ると距離感がなくなるような

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