ファイナンス 2022年10月号 No.683
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ファイナンス 2022 Oct. 41ベネッセハウスのオーバル。ミュージアムからモノレールで移動した丘の上のわずか6室のための空間。室内の床から天井までの大開口部からは瀬戸内海が一望でき、一部客室の壁にはアーティストがドローイングを制作。オーバル宿泊客以外の立ち入りができない特別な空間。ベネッセハウス オーバル 写真:渡邉修:ベネッセアートサイト直島(benesse-artsite.jp)瀬戸内海今昔 われるプリツカ―建築賞受賞者で、今年、国際理解の礎となる文化芸術の発展に貢献した世界の芸術家に感謝と敬意を捧げ、その業績を称える高松宮殿下記念世界文化賞を受賞したSANAA(Sejima and Nishizawa and Associates妹島和世・西沢立衛)の開放感溢れるガラス張りのターミナル。ここが瀬戸内海の小さな島、現代アート作品や著名建築家の建築、家屋や寺社などを改修し、空間そのものを作品化した「家プロジェクト」が島の各地に散らばり、世界でも知られる直島ワールドの入り口。ベネッセハウスベネッセアートサイト直島代表の福武總一郎が「過度の近代化や都会に対する明確なレジスタンスとして、単なる箱物」ではなく理念ある文化村を作りたいという思いから、「大都市が象徴するお金や物質的な文明」の最たる都市、東京を反面教師にしようと大阪出身の安藤忠雄に依頼。1992年に完成したベネッセハウスは美術館の中にレストランもホテルもあり、自然とアートに包まれ食事をし、泊まることもできる当時は世界中どこにも類のない場所。「自分自身を忘れさせる都会と違い、自分自身を取り戻す場、考えさせる場所」と福武は語る。アートと建築と自然環境が一つになって呼応しあっているというベネッセハウス。最初の広い円筒形のギャラリーに一つだけ展示されている、ブルース・ナウマン「100生きて死ね」。100本のネオン管のそれぞれに様々な動詞や形容詞が結び付き点滅する作品。1995年に福武書店がベネッセコーポレーションと社名変更、その「Benesse=よく生きる」という概念を導入するにあたり、それにふさわしい象徴的な作品としてどうしても欲しかったという福武が一度シカゴの資産家が落札したのを1年後に執念で買い戻したものだという。安田侃「天秘」。ベネッセハウス地下一階のギャラリーの一番奥のテラス、幅・奥行・高さ9mのコンクリ-トの壁、空に解放された空間に平たく丸い大理石の彫刻。このコンクリートの壁で囲まれた空間、「これはと思う何人かのアーティストに作品プランを依頼したが、…結局だれも空間をうまく使うことができなかった。…考えあぐねているときに安藤忠雄から安田侃の名前が挙が」ったという。美術館から「このスペースに入りたくなるものを。」とのリクエスト。安田侃は、「石そのものを見せるのではなく、その上の空間を感じさせ、天とつながるものにする」作品、「天秘」で応える。「手のひらが何かを受け止めるような形」で自由に触れるこの作品、寝転んで頭上の空を見上げたくなる。屋外作品、中国産の太湖石に囲まれた屋外ジェットバスは、2008年北京五輪の開会式の花火を演出した蔡國強の作品「文化大混浴 直島のためのプロジェクト」。様々な人種や文化の混交をコンセプトとして、風水の思想に基づき、直島の中で最も強い気の流れる海岸に設置。異なる文化を持つ様々な人々が世界から直島に集い、対話することを意図して設置された作品ゆえ、現下の状況でどうなっているのかと思ったが、2020年から他人との対話ではなく、「自然を眺めながら、ゆったりと湯に浸かり内省を深める場」としてコンセプトを見直し。毎週日曜日、ベネッセハウス宿泊者一組限定で貸し切り入浴を体験できる。1992年に最初に完成した「ミュージアム」、1995年に丘の頂上に完成した楕円形の「オーバル」、2006年に完成した「パーク」と「ビーチ」の4つからなるベネッセハウス。客室にもアート作品のあるここに泊まれば、23時まで作品を見たり、ナイトツアーにも参加でき、宿泊者用のバスで公共交通機関の少ない島の主要なスポットを回れる。今年3月、ベネッセハウス パークに、写真、彫刻など幅広い分野で活躍し、フランス芸術文化勲章オ

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