ファイナンス 2022年10月号 No.683
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*47) これはリーマン・ショック時に、2008年から国内基準行に導入されましたが、これをバーゼルIIIで恒久化するという措置(いわゆる弾力化措置の恒久化)が採られました。このような措置が採られた背景には景気循環増幅効果(プロシカリティ)への配慮があったとされています。北野・緒方・浅井(2014)は「地域や中小企業に対する重要な金融仲介機能の発揮を求められる国内基準行については、市場混乱が貸し渋り等に直接的につながるプロシカリティを回避することをより重視すべきであるとの結論に至り、評価損益ともに自己資本比率の計算上から除外することとなった」(p.219)と整理しています。*48) 例えば、自己資本が20億円、リスク・アセットが100億円、自己資本比率20%の銀行があるとします。そのうえで、2億円の資産を自己資本控除するか、1250%のリスク・ウェイトとするかを考えます。自己資本控除の場合、自己資本は18億円であり、自己資本比率は8億円/100億円から18%になります。一方、1250%のリスク・ウェイトを用いる場合、リスク・アセットは「100億円+2億円×1250%」と計算され、125億円になりますから、自己資本比率は10億円/125億円から16%と計算されます。ちなみに、最低限求められる自己資本(所要自己資本)比率を8%とすれば、所要自己資本/リスク・アセット=8%となりますから、ここから、「リスク・アセット=所要自己資本×1250%」という式が得られ、1250%というリスクウェイトはこの関係から得られると解釈できます。秀島(2021)では、「時折、100%を超えるリスク・ウェイトは『提供した資金以上の自己資本を賦課する』といった説明が聞かれることがあるが、これは誤解であり、供与額を上回る自己資本の手当が必要になるのは1250%を超えるリスク・ウェイトが適用される場合のみである(そうしたリスク・ウェイトが適用される予定はない)」(p.75)と注意を促しています。なお、厳密な議論としては、当該銀行の自己資本比率が8%より高い場合、自己資本控除の方が1250%のリスク・ウェイトよりも影響が小さいという事実がありますので、その点はご留意いただければ幸いです*48。 38 ファイナンス 2022 Oct.コア資本では有価証券の含み損益*47が含められないなどの違いがある点に注意が必要です。コア資本の詳細な定義やコア資本を導入した背景等を知りたい読者BOX 2 リスク・ウェイトと自己資本控除の関係本稿でダブル・ギアリング規制について言及しましたが、自己資本控除とリスク・ウェイトの関係を整理しておきます。実は自己資本比率規制は「比率」に規制を課しているため、自己資本から控除するか、あるいはリスク・アセットとして計上するかに本質的な違いはないとみることもできます。例えば、自己資本100億円、リスク・アセットが1000億円の銀行があるとします。仮にこの銀行が20億円だけ意図的持ち合いがあり、この20億円が自己資本から控除されたとしましょう。この場合、自己資本は80億円(100−20億円)なので、自己資本比率は80億円/1000億円=8%となります。一方、意図的持ち合いの株式のリスク・ウェイトを1250%とすれば、リスク・アセットは20億円×1250%と計算されるため、リスク・アセットは250億円増えることになります。この場合、自己資本は100億円のままですが、リスク・アセットが1250億円に増えるため、100億円/1250億円=8%であり、やはり8%になります。リスク・ウェイトが1250%になる資産がありますが、これは事実上、自己資本控除と解釈することが可能です(実際のバーゼル規制において意図的な持ち合いは自己資本控除という取り扱いがなされています)。このような観点では、ダブル・ギアリング規制において、金融機関発行の有価証券のリスク・ウェイトに対しどのような取り扱いがなされているかが重要といえますが、ダブル・ギアリング規制は今後の論文で取り扱うことを予定しています。BOX 3 ファイナンスの理論からみたバーゼル規制の整理経済学における企業金融論(コーポレート・ファイナンス)という観点で、バーゼル規制を整理しておきます。前述の通り、バーゼル規制では会計上の概念と異なる自己資本比率で規制が課されていますが、そもそも銀行が他の産業に比べて負債による調達が特に多いという側面も無視できません。自己資本比率規制で規制しているものは、あくまでもバーゼル規制で定義した「自己資本」および「リスク・アセット」ですから、会計上で見た場合の自己資本比率は8%を大きく下回り、その意味で、銀行業が有するレバレッジ比率は非常に高いといえます。この背景には、国債などの資産を銀行が多く保有していることが挙げられます。例えば、日本の銀行の場合、総資産の半数程度が国債などの債券であるということもありえ、この場合、たとえバーゼル規制上の自己資本比率が8%を超えていたとしても、会計上のレバレッジは非常に高いことを意味します(現在、レバレッジそのものに規制を行う「レバレッジ比率規制」も導入されています。レバレッジ比率規制については別の論文で紹介しようと思います)。は、北野・緒方・浅井(2014)や金融庁の告示などを参照していただければ幸いです。*48

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