ファイナンス 2022年10月号 No.683
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ファイナンス 2022 Oct. 37*43) 秀島(2021)は、負債の返済という観点で、これらは損失吸収力が低いことを指摘していますが、詳細は、同書のp.79を参照してください。*44) バーゼルIIまではのれんや繰延税金資産などはTier1からの控除となっており、これらの資産が本当に償却された場合には債務超過になるような場合でもプラスの自己資本比率となる場合もありまえした。しかし、バーゼルIIIでは厳密にCET1からの控除にした点も大きな改善点です。*45) 北野・緒方・浅井(2014)では劣後債に依存することがモラルハザードを生む可能性や、国際統一基準行のように実質破綻時損失条項が付されたTier2債を発行することにリスクがあったことなどをTier2が廃止された経緯として説明しています。詳細は同書の第3章を参照してください。*46) この概念は国際統一基準行における「その他Tier1資本調達手段」に近い概念とされていますが、実質破綻時損失条項は必要とされていないなどの違いがあります。次回の論文で、「その他Tier1資本調達手段」について説明する予定です。バーゼル規制入門 産」とは、のれんや繰延税金資産などであり、損失吸収力が低いものについてはそれを自己資本から一定程度控除することで自己資本に厚みを持たせる措置と解釈できます*43。何故バランス・シートの左側の資産を右側の資本から控除するのかという疑問を抱くかもしれませんが、資本の重要な定義として、資産と負債の差(あるいは返済義務のある負債をすべて返済した後に残るもの)があり、このようにして残る資産のうち、いざというときに価値を失う可能性がある資産は算出対象から外しておくという措置が採られたと考えられます*44。一方、「金融システム内のリスク伝播防止のために保有が制限される資産」とはダブル・ギアリングと呼ばれる規制であり、銀行が銀行株などを購入することに一定の制限を与える規制になります。バーゼル規制の趣旨に鑑みると、銀行の損失が金融システムに伝播していくことを防ぐことが企図されています。そのような中、銀行が銀行株などを多く保有していたとしたら、金融危機時に銀行株が低下することで、その損失が多くの銀行に伝播してしまうことになりかねません。また、極端な例ではありますが、例えば、銀行Aが増資して銀行Bに保有してもらう一方で、銀行Bがその銀行株を買うために増資をして、銀行Aに保有してもらうということが可能であれば(すなわち、意図的な持ち合いが可能であれば)、機械的に自己資本を増やすことができてしまいます。そのため、バーゼル規制では、「意図的な持ち合い」はCET1から控除するなど、銀行が金融機関の株式等を購入することについて規制が課されています(ダブル・ギアリング規制は非常にテクニカルなので詳細は別の論文で記載します。また、リスク・ウェイトと自己資本控除の関係についてはBOX 2を参照してください)。前述のとおり、バーゼルIIIでは自己資本の質が向上したといえます。もっとも、現在の自己資本比率規制で求めている水準が低すぎるという意見も少なくありません。アーマー等(2021)では、学者や一部の政策担当者は自己資本比率が低すぎると批判する一方で、銀行などの実務家は自己資本比率のさらなる上昇は金融機関にとってコストが大きく、貸出などに対してマイナスの影響をもたらす点を重視するとしています。経済学者の中には、アドマティ・ヘルビッヒ(2015)など、50%を超える自己資本比率の水準を提案する学者もいます。もっとも、アーマー等(2020)では、彼らの議論は「モジリアーニ・ミラーの定理(MM定理)」に依拠しており、現実的には株式のコストは負債のコストより高い現実がある点も指摘されています(MM定理についてはBOX 3を参照)。現在のバーゼル規制の是非はあまりに大きなテーマであり、本稿では紙面の関係上、深く立ち入りませんが、現在の自己資本比率の水準に対する批判も存在すること、また、そのロジックについて認識しておくことも大切だと考えています。本稿では主に国際統一基準行に焦点をあてた説明を行いましたが、最後に、国内基準行に関する自己資本の定義について簡単に整理しておきます。国内基準行についても、金融危機をうけて自己資本の質の向上がなされました。もっとも、国内基準行の多くが地域金融機関であることから、地域経済への配慮等により従来の自己資本比率4%が維持されました。具体的には、バーゼルIII以降、Tier1やTier2という従来の分類を廃止し、「コア資本」という概念が導入され、コア資本/リスク・アセットが4%以上になることが求められています。コア資本は基本的には株式など損失吸収力が高い資本で構成されており、従来、Tier2として認められていた劣後債などを廃したことから*45、国内基準行についても、資本の質が向上したと解釈できます。もっとも、コア資本はCET1に類似した概念である一方、強制転換条項付優先株式*46が含まれる点や、3.4  バーゼルIIIにおける自己資本比率は適正か3.5 国内基準行の取り扱い:コア資本

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