ファイナンス 2022年10月号 No.683
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*36) 秀島(2021)におけるP.94を参照しています。*37) 秀島(2021)では、「グローバル金融危機の中では、損失吸収しないで救済されたTier2商品がほとんどであったし、1990年代のわが国の金融危機*38) CET1が導入される前はCET1に相当する概念として、Core Tier 1などの表現が使われることもありました。*39) CET1については金融庁告示で厳格に定められています。例えば、銀行に関する連結自己資本比率については、(1)普通株式に係る株主資本の額(社外流出予定額を除く)、(2)その他の包括利益類型額およびその他公表準備金の額、(3)普通株式に係る新株予約券の額、(4)普通株式等Tier1資本に係る調整後少数株主持分の額、で構成されます。普通株式の要件として14つの要件が求められています。北野・緒方・浅井(2014)では「日本国内の銀行が一般に発行している普通株式は、これらの要件をすべて満たす」(p.41)としています。*40) この図ではバーゼルIIにおいても普通株等Tier1の記載がありますが、これはバーゼルIIIの定義に基づき、バーゼルIIにおける自己資本を再整理していると思われます。北野・緒方・浅井(2014)では1998年のバーゼル銀行監督委員会におけるシドニー合意を経て、Tier1比の半分が通常の株式資本が中心の資本構成になるよう、監督指針が定められたと指摘したうえで、バーゼルIIのTierI比率について「便宜的に、これまでの最低所要普通株式等Tier1比率が2%であったとの説明がなされることもある」(p.40)としています。*41) システム上重要な金融機関については追加的な資本が求められていますが、資本保全バッファーを含め、今後の論文で説明します。*42) 例えば、各国において含み損益の取り扱いが違うなどの指摘されていました。でもほとんどのTier2商品が救済されていた」(p.100)としています。CET1からの控除項目図表4 バーゼルIIIにおける自己資本比率規制の強化(出所)金融庁資料より抜粋8.0%Tier24.0%その他Tier12.0%普通株等Tier1バーゼルII(国際基準)自己資本8.0%総自己資本Tier26.0%Tier1普通株等Tier1その他Tier14.5%Tier1資本保全バッファー未達時には配当等を制御普通株等Tier1バーゼルIII(最低比率)10.5%総自己資本Tier2その他Tier18.5%Tier1普通株等Tier17.0%資本保全バッファー4.5%普通株等Tier1バーゼルIII(最低比率+資本保全バッファー) 36 ファイナンス 2022 Oct.本比率が信用されず、特に普通株の比率に注目が集まったとしています*36。また、同書は、従来、自己資本の中に含まれていた劣後債は、金融危機時において、損失を吸収するものでなく、むしろ、公的資金を使うことにより、その恩恵を受けたという指摘もしています(事実、ほとんどの劣後債が救済されました*37)。バーゼルIIIにおける「資本の質の向上」:CET1の導入このような金融危機の経験を経て、銀行の健全性に対しては損失吸収力が高い資本を求める必要性が認識されました。このことに係る改善をバーゼル規制の用語ではしばしば「資本の質の向上」といいます。すなわち、劣後債のような調達手段ではなく、普通株のように、例えば銀行が損失を計上したら取り分が減少するような調達手段で、より一層資金調達をすることの必要性が認識されたわけです。具体的には、金融危機をうけたバーゼル規制の改革では、より損失吸収力が高い自己資本を強調するため、「普通株式等Tier1資本」(Common Equity Tier 1)という概念が導入されました。実務家はこれを略してCET1(「セット・ワン」と読みます)」と表現します*38。(後述するような控除項目はあるものの)CET1とは、普通株および内部留保により構成されており、会計上の自己資本に近い概念です*39。図表4が国際統一基準行に対して、バーゼルII時に求められていたCET1比率とバーゼルIII以降の比率を比較していますが、CET1比率がかつて2%*40であったところ、バーゼルIII以降では4.5%が求められていることがわかります。さらに、国際統一基準行には資本保全バッファーとしてCET1比率に2.5%上乗せされているため、CET1比率は7%(=4.5%+2.5%)求められており(図表4の右側を参照)、バーゼルIIから比べると、損失吸収力が高い資本が大幅に求められるようになったといえます(資本保全バッファーについては今後の論文で説明します*41)。CET1の定義に有価証券の含み損益が含まれる点も重要な点です。歴史的には、バーゼル規制が導入された1980年代において日本はバブルであり、自己資本が相対的に少なかったことから、国際交渉の中でバーゼル規制上の自己資本において含み益を含めることが認められました。もっとも、統一的な基準がとられていないなどの問題*42が指摘されていました。そこでバーゼルIIIでは含み益と含み損を両方、CET1に含めるという措置が採られています(含み損益を含めるべきかどうかの議論については秀島(2021)が丁寧に説明しているため、関心がある読者は同書をご参照ください)。CET1のイメージは会計上の自己資本に近い概念になりますが、控除項目がある点にも注意が必要です。控除項目は主に、「損失吸収力が乏しい資産」と「金融システム内のリスク伝播防止のための保有が制限される資産」で構成されます。「損失吸収力が乏しい資

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