ファイナンス 2022年10月号 No.683
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ファイナンス 2022 Oct. 35*30) 具体的には下記の比率になります。詳細は氷見野(2005)を参照してください。 Tier 1(株主資本)+Tier 2(劣後債務、有価証券含み益等)企業向け与信×100%+銀行向け与信×20%+住宅ローン×50%+国債保有額×0%*31) 例えば、佐藤(2007)によれば、当時FRBの議長であったグリーンスパン氏は、「先進的なリスク測定手法が開発され採用されつつある中で、バーゼルIの画一的なリスク管理計測は、先進的銀行のリスク管理実務にキャッチアップしておらず、銀行ごとのリスク管理技術の優劣を考慮していない。このことは、リスク管理高度化への阻害要因(ディスインセンティブ)にもなりかねない」(p.48)と指摘しています*31。また、氷見野(2005)は、「リスクの実態と規制の乖離は、経営を歪め、質の良い資産を売ってハイリスクの資産をためこむといった、銀行を不健全化する方向の取引をかえって促進しかねない」(p.160)と指摘しています。*32) 正確には市場リスクについては1996年にバーゼル銀行監督委員会においてバーゼルIに追加することに合意したものです。本稿ではその詳細については記載しませんが、その導入の経緯については氷見野(2005)の第8章を参照してください。バーゼルIIにおいて市場リスク規制は一定の見直しがなされていますが、その詳細は佐藤(2006)の第7章を参照してください。*33) 佐藤(2006)では、「近年、銀行業務のコンピュ―タ・システムへの依存は各段に高まっており、システム・トラブルによる影響の深刻さは最近の事例でも確認されているところである。また、業務のアウト・ソーシングもオペレーショナル・リスクを高める要因になるし、経営形態のコングロマリット化も予想外のリスク伝播をもたらしうる。これらの実情に対応しようとしたのがオペレーショナル・リスクの算入である」(p.56)としています。*34) 氷見野(2005)では、1996年に導入された市場リスク規制の特徴について、「第1に、バリュー・アット・リスクの概念が初めて自己資本比率規制に導入されたこと」(p.126)に加え、「第2に、銀行の内部管理手法を規制上活用する、という発想が初めて導入されたこと」(p.127)と指摘しています。*35) 詳細を知りたい読者は佐藤(2007)の第五章などを参照してください。≧8%バーゼル規制入門 るものであり、現状と比較すると非常にシンプルな形*30でした。日本における特徴は、国際的に活動する銀行を「国際統一基準行」としたうえで、海外に支店や現地法人を持つ銀行のみに対象を絞った点です。その一方、(前述の通り)我が国で、グローバルにビジネスを展開しない銀行については「国内基準行」としたうえで、国内基準行については従来のままである4%とされました。国内基準行については、1997年の決算からバーゼル規制と整合性な規制が導入される一方で、求められる自己資本比率についてはそれまでの4%が維持されました。その後、市場リスクに対する規制など一定の修正が加えられますが、大きな変化は2000年代前半から始まった、いわゆるバーゼルIIに向けた改革です。バーゼルIIで強調された点はリスク・アセットの測定を精緻化することです。1990年以降、Value at Risk(VaR)などそれまでにないリスク管理の高度化が進みました。前述のとおり、銀行が有する資産のリスク量を反映したリスク・アセットを算出しますが、当時の手法は非常にシンプルであり、実態を反映していないという問題意識が共有されました。また、バーゼル規制が、銀行のリスク管理手法と大きく異なる手法を用いていると、銀行の意思決定にゆがみを生じさせてしまうというリスクも考えられました*31。上記を受けて、リスク・アセットの測定方法は大幅に修正されました。現在、リスク・アセットは、信用リスク、市場リスク*32、オペレーショナル・リスクで構成されますが、この3つが揃ったのもこのタイミングです*33。それまではリスク・アセットを計算するうえで、0%や20%などのウェイトを与信額や投資額に掛け合わせることでリスク・アセットを算出していたのですが、銀行にリスク・アセットを測定するうえでモデルを使うことも許容しました*34。厳密にいえば、バーゼル規制におけるモデルの許容は、1996年に導入された市場リスク規制からではありますが、銀行が有するリスクの多くが信用リスク・アセットであることを考えると、信用リスク・アセットに対してモデルの使用を認めた点はそれまでにない非連続的な変化と解釈することができます。また、バーゼルIIでは、信用リスク・アセットの算出にあたり、モデルを使わない場合でも、例えば、適格格付機関による外部格付けの使用などの改正がなされました*35。現在のバーゼル規制で用いられている3つの柱(pillar)が導入されたのもバーゼルIIからです。第二の柱と第三の柱を通じて、自己資本比率規制に限らないリスクについてのモニタリングが進んだことや、銀行の開示が進んだこともバーゼルIIがもたらした看過できない影響といえます。このようにバーゼルIIが2000年後半から導入されましたが、その導入後まもなく、リーマン・ブラザーズの破綻などを含む世界金融危機が起こり、これまでの規制を抜本的に改正する必要性が生まれました。金融危機時には色々な問題点が明らかになったわけですが、本稿で特に強調したい点は、自己資本の損失吸収力が弱いことが明らかになった点です。秀島(2021)は、金融危機時のマーケットにおいて、従来の自己資3.2 バーゼルIIに向けた改革3.3  金融危機を受けた規制改革: バーゼルIII

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