ファイナンス 2022年10月号 No.683
31/82

ファイナンス 2022 Oct. 27*68) https://commonslibrary.parliament.uk/research-brie■ngs/cdp-2022-0031/*69) https://www.thetimes.co.uk/article/liz-truss-will-declare-china-an-of■cial-threat-for-the-■rst-time-3bk7jwqjx*70) https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0505kaiken.html英国と中国の二国間関係 を訪問、二国間で友好協力(UK-Taiwan friendship and cooperation)を結んでいる*68。以上のように、英国の台湾への関与も歴史が長く、主に貿易や金融面で協力してきた。しかし、150年以上に亘って英国が統治してきた香港への中国政府の抑圧に対して、英国が踏み込んだ姿勢を取らなかったことを考慮すると、将来起こり得る台湾海峡危機に際して、英国が、中国との関係悪化に伴う経済的恩恵の減少を恐れ、実質的対応を取らない可能性も考えられる。他方、中国本土との深い関係がその付加価値の源泉となっていた香港に比して、台湾は、それ自体が高い経済的価値を有するとの認識のもと、英国が、台湾の現状、及び台湾との関係維持のために米国と共同歩調をとって強硬姿勢を取る方が大きな利益を得ることができる、と考える可能性もある。本レポートではこれ以上は踏み込まないが、英国が中国本土との比較で、台湾とどのような経済的利害を有しているかを分析する意義は大いにあるだろう。また、足元で、特に政権与党である保守党や世論を中心に中国に対する警戒感が高まっていることも注目に値する。原子力や教育に対する中国依存に国民の関心が集まり、対中感情も悪化傾向にある。加えて、保守党内では、中国との関係維持・向上を通じた経済的利益を重視する、2013年にジョンソン首相が立ち上げた「中国の保守党の友人(Conservative Friends of the Chinese)」がある一方で、2020年には、「中国研究グループ(CRG)」や、「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」といった対中強硬派議員グループが立ち上がるなど、対中政策を巡る亀裂と言える動きが見られている。更に9月7日、トラス新政権が発足したが、同首相は前述した「統合レビュー」の見直しを表明しており、中国を「体制上の競争相手(systemic competitor)」からロシアと同等の「差し迫った脅威(acute threat)」へと引き上げることを示唆するなど*69、今後の英中関係は対立の方向へと進んでいく可能性もあるが、具体的で有意なアクションに結びつくかは予断できない。また、半導体や新たな科学技術分野など、経済安保上の懸念になり得る分野で貿易・投資管理をすることは可能だろうが、大きな市場規模を持つ中国との完全なデカップリングは困難な上、HSBC等、香港・中国との関係が深い金融機関の存在もあり、今後、中国に対して敵対的で鋭い言説が増える可能性はあるが、実際の行動との間のギャップは広がるかもしれない。昨年秋に政権を発足させて以来、岸田首相はすでに5回も訪英しており*70、今後の日英関係の更なる発展と、中国への連携した働きかけに期待が高まっている。日本としては、今後、英国がインド太平洋地域への関与を深めていくとの期待をもって、共通の価値観を基に連携を深めていきたい。同時に、英国が実利主義に基づき、日本が期待するように中国と対峙しない可能性も念頭に置き、政府、民間及び金融市場等様々なレベルでの英国と中国の対話や協力の動きや関連するデータを客観的に観察し、冷静に対応する必要がある。(以上)

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る