ファイナンス 2022年10月号 No.683
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*39) 適格外国機関投資家(QFII)制度:2002年導入。中国証券監督管理委員会の認定受けた海外の機関投資家(投信会社、保険会社、証券会社、その他資産管理機関が対象だが、資産規模も必要なため、大企業でないと参入が難しい)が外貨を人民元に両替し、中国人民元建ての金融商品へ投資できる。国外への送金に規制がある。人民元適格外国機関投資家(RQFII制度):2011年導入。機関投資家はオフショアで調達した人民元で本土の株式・債券へ投資可能に。送金の制限も緩和された。2020年、両制度の投資上限枠が撤廃された。CIBM(China Interbank Bond Market)ダイレクトスキーム:2016年導入。対象となる機関投資家が拡大されたことに加え、投資上限や送金回数の制限はない。しかし、中国人民銀行への届出や取引の際に利用しなければならない決済代理人との個別契約、中国本土の保管振替機関に対する直接の口座開設が必要。*40) ボンドコネクトとの違いは、1日当たりの投資枠上限があること。概要英国銀行の関与開通年2017年 香港→中国(南向き)2021年 中国→香港(北向き)中国人民銀行に投資家登録を行えば、相互に債券を上限なし(北向き)、あるいは一定の上限ない(南向き)でマーケットメーカーを介し直接売買する仕組み人民元清算銀行及びマーケットメーカーにHSBC及びスタンダードチャータード銀行が含まれるボンドコネクト香港-上海、深圳相互に人民元建て上場株式を取引・決済※各証取所に上場する銘柄以外に、同時上場の銘柄を含む。人民元清算銀行及び株売買を仲介する証券会社にHSBC及びスタンダードチャータード銀行が含まれる2014年 香港-上海2016年 香港-深圳ストックコネクトロンドン-上海、深圳両取引所の上場企業の内、要件を満たす企業による、預託証券を通じた重複上場を可能とする仕組み※上海では人民元で、ロンドンではポンド、ドル、及び人民元での対象預託証券に係る取引・決済が可能ロンドンでの清算をロンドンクリアリングハウスが行う※上海での清算・決済銀行はチャイナクリア(CSDC)、ロンドンでの決済はユーロクリア銀行2018年 ロンドン-上海2021年 ロンドン、ドイツ、スイス-上海、深圳 20 ファイナンス 2022 Oct.証券投資、及び英国の対香港所得収支の動向の背景には、中国政府による資本規制が影響していると考えられる。中国政府は人民元の資本移動規制を通じて、為替レートを通貨バスケットと一定の範囲で固定することを可能にしている。従って、例えば、日本や欧米の個人投資家は、中国国内の金融資産に自由に投資することはできない。従来より適格外国機関投資家(QFII)制度等を通じて制限的に取引することは可能だったが*39、近年、米中貿易摩擦など海外からの圧力を受け、規制緩和、具体的には「ボンドコネクト」、「ストックコネクト」の導入と拡張が進んでいる。「ボンドコネクト」とは、2017年7月に導入された、海外の機関投資家による香港の口座を通じた中国本土の債券取引を上限なしで可能とする仕組みである。この所謂「北向きボンドコネクト」に続き、2021年9月には、中国本土の機関投資家による、本土の口座を通じた香港での債券取引を可能とする「南向き」ルートも開通した。但し、南向きルートは、1日当たり200億元(31億1000万ドル)、年間5000億元という取引上限が設定されている。こうした仕組みの下で、英国銀行が多くの取引を仲介している。まず、債券は人民元でしか購入できないため、人民元を保有していない外国投資家は、外貨を人民元に交換する必要がある。人民元転を行う銀行には、現地の銀行以外に、外資系銀行が指定されており、この中にはHSBCとスタンダードチャータード銀行が含まれる。次に、調達した人民元を用いて、海外電子取引プラットフォームを通じて、中国本土のマーケットメーカーに注文を出し、売買に参加するが、このマーケットメーカーには外資系金融機関が複数選定されており、北向きにはHSBCとスタンダードチャータード銀行が、南にはスタンダードチャータード銀行が含まれている。このように、英国と中国と直接繋ぐ証券取引のシステムはないが、香港を介することで可能である上、英国の金融機関が仲介役割を担っている。また、2019年に行われた「第10回英中金融・経済対話」で英中ボンドコネクトの実現可能性が議題とされていることから、近い将来、ロンドン金融街と中国との直接の債券取引ルートが開通する可能性もある。「ストックコネクト」は、複数の株式市場間で上場株式を取引・決済することを可能とするシステムだ*40。2014年に上海-香港間、2016年に深圳-香港間が開通したことで、外国人投資家は香港を経由して上海あるいは深圳の株式市場へのアクセスを得ており、HSBCとスタンダードチャータード銀行は株売買のライセンスを有する証券会社として、またクリアリング銀行として参加資格を与えられている。これに加え、2018年、ロンドン―上海の取引所間のストック・コネクトが開通した。両取引所の上場企業の内、要件を満たす企業による、預託証券を通じた重複上場を可能とする仕組みだ。2021年12月にはロンドンと深圳の取引所間の取引も可能になった。上海・ロンドンストックコネクトを介した、英国企業の上海証券取引所への上場実績はなかったが、新興企業の上場が多い深圳と繋がったことで、上場の可能性もある。また、ロンドン証券取引所に現在上場している8社の中国企業のうち、4社(公益事業が2社、金融・保険事業が2社存在)はストック・コネクトを通じた上場だ(図18)。(図17)債券・株式相互接続制度の仕組み(各種資料を基に作成)

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