ファイナンス 2022年10月号 No.683
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3貿易・投資を巡る英中関係産業革命を起こした国として知られる英国だが、その国際収支は、18世紀末以来、貿易収支が赤字、サービス収支と所得収支が黒字であり、貿易赤字による英ポンド売りを英国への資本流入に伴う英ポンド買いで相殺するという構造が続く*21。前章冒頭で紹介した通り、中国との関係においても同様で、経常収支は赤字基調だ。他方、前述の通り香港の発展を支えてきた経緯から、香港を通じて中国本土から資本収益を多く得てきた。以下ではその詳細を紹介するとともに、近年、グリーンファイナンス分野でも深まる中国本土と英国の関係にも光を当てる。8642086420 2021(年)20202019201820172016201520142013201220112010200920082007200620052004(出典)UN Comtrade Database200320022001200019992021(年)20202016201420152013201220112010200920082007200620052004(出典)UN Comtrade Database20032002200120001999ファイナンス 2022 Oct. 15*19) https://www.newindianexpress.com/world/2022/mar/20/uk-pm-issues-stark-message-to-china-over-russia-ukraine-con■ict-2432266.html*20) https://www.msn.com/en-gb/news/world/truss-says-west-must-overhaul-approach-to-international-security/ar-AAWFLud*21) 例外として北海油田が軌道に乗った1980-1982年は貿易黒字。英国と中国の二国間関係(図4)英国の上位国別輸出割合推移(順位は2021年時点)(%)1816141210ドイツ(2位)スイス(3位)中国本土(7位)香港(11位)201920182017米国(1位)141210(図5)英国の上位国別輸入割合推移(順位は2021年時点)(%)16中国本土(1位)ドイツ(2位)米国(3位)オランダ(4位)香港(23位)置づけ、同地域への関与を明白にしている。ロシアによるウクライナ侵略後に関しては、中国がロシアに対してはっきりとした立場を表明していないことを非難している*19他、中国による台湾への力による現状変更の懸念が高まっていることを受け、2022年4月、トラス外相は、「欧米は台湾の自衛能力確保に協力すべき」とし、NATOの台湾への関与を呼びかけている*20。但し、特筆すべきは、人権・安保をめぐる上記緊張感の高まりがみられる中にあって、2021年12月、スナク財務大臣は、胡春華副総理と行った電話会談の場で、「2022年中に第11回英中経済金融対話を開催することに合意」したと伝えられているほか、グリーンファイナンスや英中の資本市場の関係強化に向けた動きが進められているように見えることだ(詳細は3章(3)にて議論)。香港への対応を軸に、英国の中国に対する政治姿勢を200年の歴史を通じて振り返る中で浮かび上がるのは、人権・民主主義・法の支配という価値観を軸にした姿勢というよりも、実利を重視する姿勢と言える。前者については、経済的既得権益の維持・拡充に劣後し、例えば、中国に対する制裁はEUのメンバーとして一致した対応を取った天安門事件と新疆ウイグル自治区の問題に限られ、それ以外はレトリックに終始しているように見える。こうした対応は、本稿「終わりに」で議論する通り、今後、台湾海峡を巡る地政学的緊張がさらに高まった際の英国の対応を含む、今後の英中関係に示唆を与えるように思われる。英国の中国からの輸入は、近年伸びが著しく、2021年、中国は英国にとって第1位の輸入先国(13.3%)となった。英国から中国への輸出額もここ20年間で約20倍に伸びているものの、最も高かった2019年で7位、輸出全体の6.5%を占める程度である(図4, 5)。中国から見ると、英国は輸入面では25番目、輸出では9番目の貿易パートナー(2021年)となっている(図6, 7)。英国の対中貿易収支は、赤字額が拡大傾向にあり、特に2020年は約-370億ポンドと大きく増加した。サービス収支と第1次所得収支(5)まとめと考察(1)貿易

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