ファイナンス 2022年10月号 No.683
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*12) https://hansard.parliament.uk/commons/2017-06-29/debates/17062926000008/HongKongSpecialAdministrativeRegion20ThAnn*13) https://publications.parliament.uk/pa/cm201719/cmselect/cmfaff/612/612.pdf*14) https://appcg.org.uk/prime-minister-boris-johnson-on-uk-engagement-with-china/*15) 中国の全国人民代表大会が2020年6月末に制定し、即日施行。「国家分裂」「政権転覆」「テロ活動」「外国勢力との結託」の4つを、国家安全に危害を加える犯罪と規定し、最高で終身刑を科す。香港域外での行為や外国人が処罰対象になることも明記。これまでにメディア関係者や民主活動家らが逮捕や起訴されている。*16) https://hansard.parliament.uk/Commons/2020-07-01/debates/7A4917D6-E522-4589-8649-B9537A1051EA/HongKongNational*17) https://uk.reuters.com/article/uk-china-hongkong/china-threatens-to-stop-recognising-bno-passports-of-hong-kong-residents-*18) https://www.ft.com/content/8c46252e-766f-4fe6-964f-fe7f67a03c0eiversarySecurityLegislationidUKKCN24O009 14 ファイナンス 2022 Oct.て、経済・貿易・投資面で中国との取り決めを次々と結んでいった。2012年5月、キャメロン首相とクレッグ副首相によるダライ・ラマ14世との会談をきっかけに、約1年半にわたる閣僚級交流の断絶が生じたことがあったが、2013年11月に自ら訪中して閣僚交流を再開した。この問題以降、キャメロン政権の対中宥和的姿勢は強まったように見える。例えば2014年に香港で民主化に向けた「雨傘運動」が発生した際、中国政府によって英国下院の外交委員の香港訪問が禁止されたが、これについて下院で討議するに留まり、対抗措置等は採られていない。メイ政権時(保守党、2016.7.13-2019.7.24)より英中「黄金関係」に陰りが見え始めた。当初、前キャメロン政権の親中姿勢を継続し、少なくとも2017年時点で英国は「一国二制度の原則が多くの分野でうまく機能している」と評価していたが*12、2019年3月に香港行政庁長官による「逃亡犯条例改正案」提出に対する民主化デモ勃発を契機に雲行きが怪しくなる。2019年4月、英国下院外交委員会は、香港が「一国一制度」に向かっていると懸念を表明*13。しかし中国は、「「一国二制度」を定めた英中共同宣言は既に過去のもの」との認識を示し、取り合おうとしなかった。英国は犯罪人引渡条約が英中共同宣言に与える影響について声明を出すことを検討するも、結局実行に移さなかった。続くジョンソン政権(保守党、2019.7.24-2022.9.5)で、二国間対立は更に深まる。同首相は、元々サッチャー政権時にロンドン市長として中国と交流があったことや、メイ政権時に外相を務めた際、香港を巡る人権抑圧、民主化阻止の動きに対して曖昧な外交姿勢をとった経緯からも明らかな通り、首相就任当時は親中姿勢が顕著であり、実際、2020年6月、自らを「親中派(sinophile)」と述べていた*14。特に2020年1月のEU離脱以降は、中国傾斜が明らかで、2020年2月、ジョンソン首相と習主席は会談で、英中関係の重要性について認識を共有し、二国間協力を約束している。しかし、「国家安全維持法案*15」が、2020年6月に中国全人代で可決されたことを受け、英国は同法案が「英中共同宣言」の明確かつ重大な違反と非難すると共に*16、香港在住の英国国籍保有者を対象に、英国居住権獲得プロセスを簡素化し、英国へ容易に避難できる措置をとった。併せて、(1)中国本土への武器禁輸措置の香港への拡大、(2)香港との犯罪人引渡し条約の即時・無期限停止、という追加措置を発表。これに対し中国は、香港住民が有する英国パスポート承認を撤回し、将来的に香港から英国への渡航ができなくなる可能性を示唆*17するとともに、英中関係は「深刻に毒されており」、英国は「重要な歴史的岐路」に立たされていると警告する等、互いに強硬な姿勢をとり続けた。更に、経済安保(3章(2)で後述)、人権侵害、新型コロナウィルス感染流行、ロシアによるウクライナ侵略が、英中関係の悪化に拍車をかけているように見える。新疆ウイグル自治区における人権侵害に関しては、2021年3月、英国はEU、米国、カナダと共に、中国高官に制裁を発動した。数日後、中国は上院・下院議員を含めた英国人10人の出入国を禁じ、資産を凍結する対抗措置を採っている。新型コロナウィルスについては、2021年4月、ラーブ英外相が、「国際社会は北京の感染症対応について答えを求めるだろう」と、中国の説明責任を追及している*18。さらに2021年、英国はインド・太平洋地域における米豪英の安全保障上の枠組み「AUKUS(Australia・United Kingdom・United Statesの頭文字)」に参加。領土問題、核拡散、気候変動、テロや重大組織犯罪などの非国家的脅威を含む地政学的競争の中心としてインド太平洋地域を位(4)人権を巡る関係悪化

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