ファイナンス 2022年9月号 No.682
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令和4年度職員トップセミナー 講師略歴吉川 洋(よしかわ ひろし)財務総合政策研究所名誉所長・東京大学名誉教授1951年生まれ、東京都出身。1974年に東京大学経済学部を卒業後、1978年にはエール大学大学院経済学部博士課程修了(Ph. D.)。その後、ニューヨーク州立大学経済学部助教授、大阪大学社会経済研究所助教授、東京大学大学院経済学研究科教授などを歴任し、2016年から東京大学名誉教授。その間、内閣府景気動向指数研究会座長(1999年-)、財務省財政制度審議会会長(2010年-2017年)、財務省財務総合研究所名誉所長(2017年-)などを務める。経済学の研究、教育、社会への普及等の功績から多くの学術賞を受賞。2010年には紫綬褒章を受章。ファイナンス 2022 Sep. 69う数字で右往左往するよりははるかにmake senseな(道理にかなう)物価目標だと思います。最後にケインズの言葉を紹介したいと思います。ケインズの先生であるマーシャルが1924年に亡くなった時のobituary(追悼記事)の中でケインズはこう言っております。「経済学という学問をやるためには特別に優れた才能、例えば数学といったようなものは必要としない。にもかかわらず、優れた経済学者というものはほとんどいない。ある種のパラドックスである。何でそうなるかというと、economist、master economistというのはいくつかのgifts(才能)のcombination(組み合わせ)を持っていなければいけない。それはどういうものかというと、抽象的なsymbol、これは数式という感じでしょうか、それを理解しなければいけないけれども一方で、それを言葉で表現できなければいけない。個別なことを一般的なperspective(視点)から議論できなければいけない。抽象的なことと具体的なことを両方とも併せ持って考えなければいけない。現在について考えるわけだけれども、過去をふまえそして未来のためにそれをやらなければいけない。彼が関心を持たなくてもいいような制度とかそういうものはない。逆にすべてのことに関心をもっていなければいけない。He must be purposefulと同時に公平でなければいけない。彼はaloof、超然としていなくてはいけないが、一方では芸術家のようでなければいけない。しかし時々は、政治家のようなこともできないといけない。これをすべて持っている人間はあまりいない。だから優れたeconomistはほとんどいない。自分の先生であったマーシャルはそういう人であった。」という内容です。ケインズが言っているこうした資質というのは、政策を担う実務家である皆様方に期待される資質でもあると思います。ご清聴ありがとうございました。(以上)

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