ファイナンス 2022年9月号 No.682
61/94

202220212020201920182022202120202019201820172016201520142022202120202019202220212020201920192017202120162011200620011996199119861981197619711966196119562022202120202019201820172016201520142013 (図表8)実質民間消費の推移(図表11)生産年齢人口推移(図表9)貿易量指数の推移(図表12)実質金利と自然利子率(前年比、%)80706050403020100-10-20-30201810095908580757065602012(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。・こうしたインフレの加速によって、民間消費が抑制されている。・トルコの賃金・給与指数を見てみると、実質ベースの賃金・給与指数はインフレの加速を受けて増勢が鈍化していることが分かる。トルコ政府は最低賃金を大幅に引き上げるなどの対応を行っていることもあり、名目ベースの賃金・給与指数は増加しているが、足元の実質ベースではインフレの加速により、その効果も薄まりつつある(図表7)。・実質賃金の伸びの鈍化は実質消費を抑制し、GDPの6割を占める民間消費は4四半期ぶりの減少へ転じている(図表8)。・次に、輸出入を見てみると、民間消費をはじめとする内需の増勢が鈍化していることを反映して、輸入数量が伸び悩んでいることが分かる(図表9)。インフレが加速することによって、民間消費が抑制されて、経常収支の悪化が押しとどめられている状況にある。・経常赤字に歯止めがかからなければ、更に通貨安になり、その通貨安が更なる輸入インフレをもたらすという悪循環に陥る可能性がある。しかし、トルコではインフレが進み過ぎたことによって、実質消費が減少し、結果的に経常赤字の拡大に歯止めがかかった。(図表7)賃金・給与指数の推移・インフレにより民間消費が減少することで、経常収支の改善がもたらされた訳だが、この状況を国民はどう捉えているのであろうか。消費者へのアンケート調査である消費者信頼感指数を見てみると、同指数は低下を続けており、消費者は景気の見通しを悲観していることが分かる(図表10)。・これまでトルコ経済は、豊富な労働力を背景に消費を中心に経済を拡大させてきた。人口構成を見てみると、生産年齢人口がそれ以外の従属人口の2倍以上ある状態であり、いわゆる人口ボーナス期にあるといえる。実際に、生産年齢人口が上昇する中で(図表11)、国内の消費は押し上げられ、GDPの拡大に寄与してきたが、足元ではインフレの加速によって、購買力の伸びは鈍化し、経済成長は減速している。・現在のところ、トルコの金融政策は、意図するようなトルコ経済の安定化やインフレ抑制を実現できていない。利下げは通貨安を引き起こしたが、通貨安は輸出の増加をもたらさなかった(図表9)。実質金利の引き下げが、国内の投資や生産を拡大させたとは言えなさそうである(図表12)。・インフレ下で異例の利下げ政策を行ったトルコの経済政策は、我々に大きなインプリケーションを与えてくれそうだ。経常赤字国が低金利政策を続けた場合の重要なケーススタディと成り得るだろう。同政策の継続性も含めて、トルコ経済が今後どのような道程を辿っていくのか注目したい。(図表10)消費者信頼感指数名目賃金実質賃金(出所)トルコ中央銀行、トルコ統計局(出所) トルコ統計局、Bloomberg、トルコ中央銀行、国際連合「Department of Economic and Social Affairs」、Orhun Sevinç「Potential Growth in Turkey:Sources and Trends」(前期比年率、%)140120100806040200-20-40-602013(百万人)90807060504030201001951生産年齢人口従属人口(2015=100)17016015014013012011010090802017(%)100-10-20-30-40-50-60-702016注1:実施金利は(一週間レポ金利)-(消費者物価上昇率)にて算出注2:自然利子率はトルコ中銀が推定した潜在成長率を採用注3:2019年以降の自然利子率は2018年の数値を延伸輸出輸入実質金利自然利子率コラム 経済トレンド 99ファイナンス 2022 Sep. 57インフレと民間消費経常赤字国の教訓

元のページ  ../index.html#61

このブックを見る