ファイナンス 2022年9月号 No.682
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2022202120202019201820172016201520142022202120202019201820172016201520142013201220222021202020192022202120202019(図表5)通貨安と消費者物価指数(図表2)経常収支の推移(図表3)エネルギー供給源の割合(図表6)不動産価格指数の推移(Million USD)80,00070,00060,00050,00040,00030,00020,00010,0000-10,000-20,000-30,0002019201720152013201120092007200520032001199919971995199319912021(出所)トルコ中央銀行、トルコ統計局、BP「Statistical Review of World Energy」(出所)トルコ中央銀行、Bloomberg、OECD(図表1)消費者物価上昇率および主要政策金利の推移(前年比、%)807060504030201002011・インフレの加速は世界的な現象だが、その中でもトルコは特にインフレが昂進している。各国がインフレ対応に利上げで動く中、トルコはインフレ対応に利下げを行うという独自の金融政策を取っている。物価が上昇する中でも中央銀行は2021年9月から4ヶ月連続の利下げを行い、政策金利を19%→14%とした(図表1)。トルコ中銀は「金利が低下すれば、資金調達コストが低下して、設備投資・雇用・輸出が増加し、経済の安定化によりインフレが抑制される」と説明するが、果たしてインフレは抑制できているのだろうか。本稿は同政策が与えた影響について以下考察を行う。・トルコの経常収支は長らく赤字の状態が続いているが、その主な要因はエネルギーの輸入である(図表2)。エネルギー資源に乏しいトルコは、その大半を輸入に依存してきた為である。・政府は、この問題を重要課題としており、近年は、再生可能エネルギーや原子力の導入によるエネルギー内製化を目指している(図表3)。その結果、再エネは年々増加傾向にある一方で、原子力については、2023年以降に初めて稼働を予定している原発を含め、計12基の建設計画に遅れが生じており、エネルギー内製化による経常収支改善の道程は厳しいものとなっている。・エネルギー内製化などの構造転換には時間を要するため、経常赤字は海外からの資金によってファイナンスされなければならない。海外からのファイナンスの内訳としては、直接投資や証券投資の割合が比較的高い。しかし、足元では証券投資の割合は大きく減少し、その他投資の割合が増加している(図表4)。直接投資や証券投資はその他投資と比べ中長期の資金を多く含み、その他投資は短期の資金を多く含むと考えられることから、足元では多くを一時的な借り入れでファイナンスしていることが分かる。・通常、経常赤字国が海外資金の獲得を目指すには、金融政策によって自国の金利水準を高めに設定することが多い。実際に足元では米国の利上げに対応する形で、新興国では利上げによる資金流出を防ごうとする動きが見られている。・一方でトルコは2021年9月からは利下げに転じている。利下げに踏み切ったことでトルコリラ安が加速し、インフレが進んでいる。トルコは中間材、資本財の多くを輸入に依存しており、トルコリラ安の進行は輸入品価格の高騰を引き起こし、消費者物価指数の伸びの加速をもたらしている(図表5)。・また、トルコリラ安は不動産価格の高騰ももたらした。インフレ下で資産価値防衛に迫られた資金が不動産に流入した為である。5月の不動産価格指数は前年同月比2.5倍となっている(図表6)。不動産価格の上昇は賃料の上昇につながり、インフレ率をさらに押し上げるというスパイラルが生じている。(図表4)金融収支の推移消費者物価上昇率一週間レポ金利直接投資証券投資その他投資金融収支10,0008,0006,0004,0002,0000-2,000-4,000-6,000-8,000-10,0002013(Million USD)(USD/TRY)201816141210864202018米ドル/トルコリラ消費者物価指数(右軸)経常収支経常収支(エネルギーを除く)(2003=100)1,2001,0008006004002000(Twh)2,0001,8001,6001,4001,2001,00080060040020001995201920152017201320112009200720052003200119991997199319912021(2017=100)5004504003503002502001501005002018天然ガス石油再生可能エネルギー石炭大臣官房総合政策課 川原 竜馬/伊藤 恭平本稿では、トルコ経済における現状と課題、同国の金融政策について考察する。コラム 経済トレンド99 56 ファイナンス 2022 Sep.金融政策と経常収支通貨安の影響トルコのインフレと利下げ

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