ファイナンス 2022年9月号 No.682
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FINANCE LIBRARYファイナンスライブラリー 最近、日本の国家公務員の在り方については、その受験者の減少や若手の退職者数の増加とともによく報じられるテーマとなってきた。日本経済新聞が、この8月に「崩れゆく国家公務員」というなんともいいようのない表題で連載を朝刊政治面で行っていた。そのような中、本書は、6月25日付朝日新聞朝刊の読書欄で、「改革の道筋ただし再生策を探る」(犬塚元・法政大学教授執筆)と題して、嶋田博子・京都大学公共政策大学院教授の「職業としての官僚」(岩波書店)とともに、「いかに官僚制に有能な人を集めて、うまく機能させるかを考える導きとなる」著作として紹介されていた。本書は、現在日本の官僚の選好を官僚に対するサーヴェイ調査から分析するものである。対象は、財務省、総務省、経済産業省、国土交通省、厚生労働省、文部科学省の6省の官僚に職場環境や業務に関する認識を尋ねている。これに先行するものとしては、村松岐夫氏(当時京都大学法学部教授:行政学)が主導した、1971年、1985年、2001年と3回の行政エリート調査がある。その後、青木栄一氏を中心に2016年に行われた文部科学省幹部職員を対象としたサーヴェイ調査では、村松氏の調査とは異なる特徴が出ており、改めて調査が行われた。第10章で北村教授が「官僚意識調査の実施上での課題」で詳しく述べているが、近年この種の調査にはかなりの困難が生じていることがわかる。特に、現場の課長補佐クラスの意識調査は難しいとする。日本政府の行政のキーワードの1つは、「EBPM」だが、「まず隗より始めよ」というように、行政学などの研究者が容易にアクセスできる調査を制度官庁がきちんと行っていくようなことが考えられないのか、国家公務員をめぐる上記のような問題解決のために、周智を集めようとするならば、真剣に検討すべき状況にある。評者は、上記「行政エリート調査」をもとにした村松岐夫氏の『戦後日本の官僚制』(1981年)を1986年夏の官庁訪問のころに読んで、中央省庁に務めるものの考えというものはこういうことかと印象深く思った。入省後に出た村松氏の『日本の行政─活動型官僚制の変貌』(1994)も日本の役所の特徴である「大部屋主義」(最大動員)を鮮やかに分析したものとして大いに納得し、行政学の意義を認識した。編者の北村亘氏は、現在大阪大学大学院法学研究科教授で、行政学、地方自治論を研究分野とする。北村教授の著作『政令指定都市』(2013年)は、本誌2013年9月号、『地方自治論』(共著 2017年)は本誌2018年4月号の本欄で紹介した。本書の構成は、はじめに:官僚意識調査から見た日本の行政─2019年調査から見えてきた日本の行政の変容(北村亘)、第1章 省庁再編後の日本の官僚制─2019年調査のコンテクスト(北村亘・小林悠太広島大学大学院人間社会科学研究科助教))、第2章 政策選好で見る官僚・政治家・有権者の関係(曽我謙悟(京都大学大学院法学研究科教授))、第3章 官僚の目に映る「官邸主導」(伊藤正次(東京都立大学大学院法学政治学研究科教授))、第4章 政策実施と官僚の選好(本田哲也(金沢大学人間社会研究域法学系講師))、第5章 なぜデジタル化は進まないか─公務員の意識に注目して(砂原庸介(神戸大学大学院法学研究科教授))、第6章 2019年の中央官庁の自治観(北村亘)、第7章 官僚のパブリック・サービス・モチベーションと職務満足(柳至(立命館大学法学部准教授))、第8章 何が将来を悲観させるのか─リーダーシップ論からの接近(小林悠太)、第9章 官僚にワーク・ライフ・バランスをもたらすものは何か(青木栄一(東北大学大学院教育学研究科教授))、第10章 日本の官僚制はどこに向かうのか(北村亘)となっている。第1章では、2000年代の統治機構の改革の概括的な振り返りと注目論点が指摘される。そのうえで、政治学における官僚制研究が停滞する一方、「組織としての官僚制」に関する研究は、経営学の知見や心理学アプローチの導入により大きく発展したという。「海外では官僚の選好や行動を探るための重要な学術ツールとしてだけではなく、人事政策を考えるうえでもサーヴェイ調査が重要な位置を占めている」という。さらに、本書の構成について紹介されている。第2章では、有権者、政治家、官僚といった三者の関係を計量的に捉えようとした取り組みであるが、「そこから有斐閣 2022年3月 定価 本体3,800円+税ファイナンス 2022 Sep. 47評者渡部 晶北村 亘 編現代官僚制の解剖 〜意識調査から見た省庁再編20年後の行政

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