ファイナンス 2022年9月号 No.682
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7おわりに本稿では、政府系金融機関等による新型コロナに対する資金繰り支援が、その時々の社会経済情勢や事業者のニーズの変化に応じて、どのように改正・拡充されてきたかという変遷を時系列に沿って取りまとめた。本誌令和2年8月号が、新型コロナの感染開始当初の数ヶ月間という短い期間に政府としてどのように事業者に対する資金繰り支援態勢を迅速に整備したか、を切り取る「静」のスナップショットとするならば、本稿は、態勢が一旦整備されてからの2年間という時間の流れの中の動向を時点、時点の感染動向、社会経済情勢とともに定点観測する「動」の記録フィル*48) 首相官邸「コロナ禍におけるウクライナ情勢に伴う原油価格・物価高騰等への対応について(内閣総理大臣発言要旨)」 *49) 内閣官房「コロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」」 *50) 財務省ほか「「原油価格・物価高騰総合緊急対策」を踏まえた資金繰り支援の徹底等について」 https://www.kantei.go.jp/jp/content/20220329houdou_siryou.pdfhttps://www.cas.go.jp/jp/seisaku/genyukakaku_bukkakoutou/index.htmlhttps://www.mof.go.jp/policy/■nancial_system/■scal_■nance/torikumi/20220511_yousei.pdf 新型コロナ感染症対策に係る資金繰り支援について ファイナンス 2022 Sep. 45理大臣によって「総合緊急対策」の策定の指示がなされた。*48この総理指示がコロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」として取りまとめられ、4月26日に公表された。*49この「総合緊急対策」においては、新たな価格体系への適応の円滑化に向けた中小企業対策等が柱の1つとされ、資金繰り支援については以下の施策等が盛り込まれた。(総合緊急対策)〈ウクライナ情勢・原油価格高騰等の影響を受けた事業者の資金繰り支援〉・日本公庫等によるセーフティネット貸付の更なる金利引下げ(▲0.2%→▲0.4%)〈新型コロナの影響を受けた事業者の資金繰り支援〉・実質無利子・無担保融資及び危機対応融資の申込期限の9月末への延長さらに、5月11日には、新型コロナに加え、ウクライナ情勢・原油価格高騰等により影響を受けた事業者に対して、「総合緊急対策」に盛り込まれたこれらの施策を活用しつつ、寄り添ったきめ細かな支援を徹底するよう、金融庁・経済産業省・財務省等から官民金融機関に対して要請文の発出を行った。*50ムと言えるかもしれない。2つの寄稿を合わせ読むことで、読者が新型コロナに対する資金繰り支援について多面的に理解することの一助となれば、執筆陣一同として幸いである。本稿執筆時点において、新型コロナの感染は一時に比べれば落ち着きを見せているものの、新規感染者数の増減の波が依然継続しており、完全な終息に向けた道筋は依然見通しづらい。そして、本稿中でも取り上げてきたように、事業者のニーズは時を経るごとに変わってきている。応急処置としての資金繰り支援策が行き渡り、コロナ禍を生き抜くための当面の資金に対する需要は落ち着く一方で、緊急融資により積み上がった債務を中長期的にどのように解消していくか、事業再生・再構築も含め、どのようにして事業自体の収益力を改善していくか、というように、そのニーズは個々の事業者の事情に応じて多様化してきている。まさにそのような事情を背景に、本年3月に経済産業省、金融庁、財務省の連名で、中小企業の資金繰り、事業再生、収益力改善、再チャレンジ等を支援する「中小企業活性化パッケージ」を公表している。今後、同パッケージの施策を着実に実行しながら、事業者の直面する課題に対して力強くかつきめ細やかに対処し解決していくことが望まれる。また、足下では、新型コロナに加えて、原油価格・物価高騰等も懸念されている。上述の通り、4月に公表された「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」において、新型コロナ対応としての実質無利子・無担保融資および危機対応融資の9月末までの延長と併せて、原油価格・物価高騰等の影響を受けている事業者のうち、既存の資金繰り支援の対象とならないような事業者のニーズに対しても応えることができるよう制度設計に配慮がなされた上で、資金繰り支援策(金利を引き下げたセーフティネット貸付)が9月末まで措置されている。現在はVUCAの時代と呼ばれ、将来を予測することが従来以上に困難となっている。このような時代に、政府として求められることは、その時々の社会経済情勢に応じて、動的に変化していく政策の対象者の実態

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