ファイナンス 2022年9月号 No.682
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1はじめに*1令和2年初頭より始まった新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)の感染拡大に対して、政府は日本政策金融公庫(以下「日本公庫」という。)や日本政策投資銀行(以下「政投銀」という。)などの政府系金融機関等を通じて、新型コロナの影響を受ける事業者の資金繰りを支援するために様々な施策を打ち出してきた。新型コロナの感染拡大が始まった際、初動として、どのように資金繰り支援策が企画立案され、そして実行に移されたかという経緯については、神田眞人総括審議官(当時)による寄稿「新型コロナ感染症対策に係る資金繰り支援について」(本誌令和2年8月号)において、包括的に取りまとめられている。*2*1) 執筆者の肩書は、令和4年6月30日現在*2) 神田 眞人「新型コロナ感染症対策に係る資金繰り支援について」「ファイナンス」令和2年8月号 *3) 令和4年4月末時点で、政府系金融機関による実質無利子・無担保融資等の実績は約101.8万件、金額にして約18.5兆円。民間金融機関による保証付融資の実績は約199.1万件、金額にして約37.6兆円となっている(うち民間無利子・無担保融資の実績は約136.6万件、金額にして約23.4兆円)。https://www.mof.go.jp/public_relations/■nance/202008/202008c.pdfまた、小澤 研也「(補論)新型コロナ融資への財政投融資の対応」「ファイナンス」令和3年2月号において、新型コロナ融資の財源面について取り上げている。https://www.mof.go.jp/public_relations/■nance/202102/202102g.pdf大臣官房政策金融課  新型コロナの感染拡大は、その拡大当初に想定されていたよりも長期化し、感染拡大開始から2年が経った本稿執筆時点(令和4年6月)においても、感染者数の増減の波がありながらも、依然完全な収束には至っていない。結果として、政府系金融機関等による資金繰り支援は2年超にわたり継続されることとなり、官民金融機関による新型コロナ対応の融資・保証の実績は総額で約56兆円にまで上っている。*3併せて、新型コロナの影響の長期化に伴い、社会経済情勢やその中での事業者のニーズも、例えば、当面の事業継続に必要な資金繰りから、新型コロナで毀損した自己資本等の財務基盤強化、そして、いわゆるコロナ禍を通じて積み上がった債務への対応といった形で多様化していくこととなった。その時々の事業者の状況等の変化を反映して、政府系金融機関等による資金繰り支援をはじめとした事業者支援のあり方についても、累次にわたり改正、拡充が行われてきている。本稿においては、新型コロナ対応としての資金繰り支援の初動についてまとめた本誌令和2年8月号の寄稿を引き継ぐ形で、政府による資金繰り支援が、過去2年に渡りどのように変遷してきたかについて、また、当時の社会経済情勢や事業者の資金繰り動向等を踏まえてどのように政策の検討を行ったのかといった、政策立案の背景等についても担当者の視点から触れながら、取りまとめていきたいと思う。本稿の意義は以下の二点と考えている。一点目は、新型コロナという複数年にわたる危機的事態において、政府系金融機関等による資金繰り支援という制度が、その時々の社会経済情勢を反映してどのように最適化されてきたかという経緯を網羅的かつ動的に記録している点である。二点目は、そうした制度改正が当時どのような検討を経て実行されてきたかを、政策担当者の視点から記録している点である。執筆陣には過去2年にわたり同施策に従事してきた者を含んでいる。コロナ禍が過ぎ、当時の記憶、記録が散逸する前にこのような形で取りまとめることで、将来的に同施策の内容、経緯等を振り返る上での理解の一助になればというモチベーションの元に、今回の寄稿に至った次第である。なお、本稿は、当時の業務経験、作業記録、公表資料等を元にして、執筆陣が個人として解釈・構成したものであり、政府や財務省の公式な見解を記すものではない。また、本稿に含まれた情報や制度の説明について間違いがあることも十分にありうる。そのような 32 ファイナンス 2022 Sep.鳥羽 建/奥山 勇太/小土井 一洋/中川 忠明/大和 史明*1新型コロナ感染症対策に係る 資金繰り支援について~令和2年度後半以降の動向~

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