ファイナンス 2022年9月号 No.682
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*19) https://www.jstage.jst.go.jp/article/rmsj/69/0/69_KJ00010120262/_article/-char/ja/(3) 記録管理・アーカイブズの重要性、情報ガバナンス(Information Governance)記録管理学会長、ARMA(国際記録管理者協会)東京支部長を歴任し、現在はARMAInternational米国フェローである小谷允志氏は、昨年、その編著になる「公文書管理法を理解する」(日外アソシエーツ)を出された。たまたま筆者は、近所の三鷹市立図書館でこの本を見かけたことをきっかけに、昨事務年度お話を何度か直接伺う機会を得た。問題点が判明した。こういった点については率直に反省しなくてはならない」との言及がある。筆者が情報公開・個人情報保護室長在任中に、情報公開法に基づいて情報公開請求がなされたこともあり、注目の談話であった。服部龍二中央大学総合学部教授は、『外交を記録し、公開する~なぜ公文書管理が重要なのか』(東京大学出版会 2020年3月)で、「文書管理による外交優位性の追求」という観点から、元外相で枢密院顧問官の石井菊次郎が1933年に枢密院審査委員会で述べた「書類整備の完否は結局、外交の勝敗を決するものである」という言葉や、加瀬俊一を通じて知られる重光葵の標語「記録なくして外交なし」を紹介している。服部教授は、国内面での公文書管理の意義を(1)行政の透明性と説明責任(アカウンタビリティー)の確保、(2)政治主導と文民統制の推進、(3)文化政策、文化資源の一部、(4)公務員や市民への手引きと、(5)歴史学や行政学の貴重な素材、という点をあげ、国際的視点からは、上述の「文書管理による外交的優位性」(行政的文書)のほか、「ソフト・パワーとしての文書管理」(歴史的文書)という形で整理している。国内面での意義は当然として、財務省においても「文書管理による外交的優位性」(行政的文書)については、「財政密約」の教訓として、今後の取組においては十分配意する必要があろう。アメリカでは記録管理がきちんとしていて、日本側では事情を知る者が現職の中にはいなかったというのは「痛恨事」であった。小谷氏の記録管理学会2015年研究大会における特別講演「なぜ日本では記録管理・アーカイブズが根付かないのか」*19は印象的な論考である。すなわち、「欧米に比べ日本の記録管理・アーカイブズは、立ち後れが目立つ。なぜ日本ではこれらが根付かないのか。その要因を探り、それに対する処方箋(対策)を考えるのが本稿の目的である。ここではその要因を、日本の組織、日本社会に内在する特性に起因する、より本質的なものとして捉え、それらを、(1)"今"中心主義、(2)無責任体質、(3)合理性を欠く意思決定プロセス、の三つとした。またそれに対する処方箋(対策)を記録管理・アーカイブズに携わる者の果すべき役割として捉え、(1)記録管理・アーカイブズの重要性を説く、(2)現用と非現用をつなぐ、(3)専門職体制の確立、の三つとしている。」という内容である。ここで主張される処方箋の最初の1つである記録管理について、従来の単なる文書整理的な文書管理ではなく、グローバル・スタンダードに基づいた本格的な記録管理を説明することの重要性を主張する。記録管理が組織の情報管理の重要インフラであるとする。その上で、上記の編著では、最近米国の情報管理・記録管理分野で広がってきた新しい考えとして「情報ガバナンス」(Information Governance:IG)を紹介している。そして、「現在、組織における情報は、従来の紙媒体から電子情報に大きく比重を移しつつあることについては誰も異論がないだろう。これら激増する電子情報がどこにあるかと言えば、各クライアントのPC、あるいは共用のサーバー、CD-R、DVD等の外部記録媒体から、さらにはクラウドなど実に様々な場所に存在している。そして組織は、このような情報のすべてを総合的に管理しなければならない。しかも情報公開等の説明責任、リスク管理、歴史的記録のアーカイブズなどの要件も満たしながら情報の保護を図るという難しい対応が求められているわけだ。つまりこのような情報環境の変化に対応するためにIGという新しい情報管理の概念が登場したと考えることができるだろう。」(同書179頁)という。日本では、歴史的な経路依存により、記録管理が確立する前に、情報公開法が結果として先行するということになり、そのことが適切な記録管理の哲学が普及することの壁になっているという指摘もある。このよ 30 ファイナンス 2022 Sep.

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